転生するということ その3
それから数日後。私がバーカウンターで冒険者さまに
「やぁアワレー氏。例の物ができたぞ。オーナー氏を呼んでくれ」
「あ、本当に作ってたんですね」
「ん?」
謎アイテムの長い首を、手の代わりに挙げてあいさつしてくるガリオさん。
その後ろからトニコがひょこっと顔を出します。
「私もめちゃ手伝った」
「そう言やアンタ、魔術具調整が専門だったね」
本分を取り戻してほくほく顔のトニ公。長らく活躍の場がないから忘れてたよ。「モノ
ま、その辺のバチバチにどうでもいいことは置いといて、オーナーを呼びましょう。
よい子のみんな、せーのっ!
とかではなく普通に部屋をノックして。
オーナーを呼びに行くと、彼は
「いいね! じゃあ僕もロビーに降りるから、そっちで話をしよう。そんな大きな道具なら、持って階段上がるのも一苦労さ」
そういう気遣いができる人間なら、普段からもっと私にも適用してもらいたいものです。マジで。
ま、そういうのは置いといて、オーナーと一階に降りて、ガリオさんの説明を受けましょう。
「この魔術具はだな、こちらの吸い口を人、物、場所に向けて使う。すると対象に刻まれた記憶や記録を回収することができる」
「相手が忘れてた場合は?」
「というか、そもそも場所に記憶とかあるの?」
私やオーナーは、専門外の学問を教わっているような顔。対するガリオさんは、
「ある」
ドヤ顔。
「一時的に思い出せなかったことが、あとになって急に思い出せたりするだろう? 『取り出せるよう回路が繋がっているか』がランダムなだけで、消滅はしない。記憶とはそういうものだ」
「起きてたり寝てたりするだけで、反応なくても死んではいない感じ?」
トニコの補足は分かるような、分からないような。
「そして場所の記憶というのは、場所自体が覚えているというよりは、そこにいた人間の魂の
「シャツに跳ねたケチャップがシミになっちゃう感じ!」
ケチャップおいしいですよね。異世界商人カツヒコさんが売ってる時は、必ず買ってます。
「じゃ、とにかく、記憶の回収に問題はないんだね?」
「そうとも」
オーナーに胸を張って答えるガリオさんでしたが、一瞬気まずそうな顔をすると、「なんの話だろう?」と集まっている冒険者さまの集まりを指さします。
「……と、彼が言っていた」
「お師匠が言っていた」
立てた親指の先にはモモタロウさん(最強陰陽師の弟子)。受け売りの受け売りだったのね。
と、今度は集まりの中から、カトリンさんが疑問を口にします。
「しかし、それでは逆に、今回の件において不必要な記憶も吸い込んでしまうのでは?」
「それも問題ない」
ガリオさんはやおら、数日寝たままで放置されていた男の上着を脱がせます。そしてそれを吸い込み口とは逆、取手と車輪の付いた箱のような部分へ。
「こうして本人の残滓となる物をフィルターにすることで、必要な情報だけ選べるということだ」
「私がやりました!」
にっこり笑顔のトニコ。確かに魔術具調整は、道具と使用者の波長を合わせるものも多いので、彼女の得意分野なのかも。そこ! モノノちゃんより優秀とか言わない!
そんなことは置いといてですね。置いとけ。
粗方の説明を終えたガリオさんが、私の方を向きました。
「というわけで、こちらの準備は完了している。アワレー氏、そちらのマネジメントはどうだね?」
「あぁー、えー。……えー?」
あれですよね? 安全に転生する方法持ってる冒険者さまですよね?
「移動に関しましては、カツヒコさんという異世界を股にかけて移動する方がいらっしゃいますので、まぁいけると思うんですが……」
「ですが?」
「そもそもどこに行ったら、この謎のおじさんの記憶が回収できるんですか?」
だって誰も、縁もゆかりも分からないんですよ? いったいどうしろというのか?
「大丈夫だ。それはもう判明している」
ガリオさんは手のひらで私を制しました。
「幸い、持ち物のカードに身元が書いてあってな。トニコ嬢がそれを読めたのだ」
ん? トニコ嬢? アワレー氏より距離感近いな? おん?
「ていうか、転生者さんが教えてくれたニホンゴだったから、読める人いっぱいいると思うよ」
それはまだ『アニメの有名なセリフ知ってる外国人レベル』と評される習熟度の私に対する挑戦か? はぁ、この世の全てが今書いてる『クエスト
話を戻しましょう。
「それによれば、チキュウ世界のニホン、トウキョウなる地域に行けばまず、彼の住まいがあるようだ」
「ま、転生者さんの九割は同じところから来るし、山張りでも外れなかったと思うけど」
トニコがニヤリ。それを聞いて頷くオーナー。
「じゃあもう準備万端なわけだ。で、モノノちゃん。誰を派遣するのかはマネジメント済みなのかな?」
「まだです!」
「なんでまだなの」
「オーナーが報酬を設定しないからです! 誰もタダじゃやりませんよ!」
「あー、忘れてたね」
現金だなぁ、なんて頭を掻くオーナー。アンタに言われたらおしまいです。
グダグダだな、なんて顔を
「ま、何はともあれ、カツヒコさんが行商から帰ってこないことには始まらないし。それまでに決めればいいんじゃん?」
トニコが暢気に締めたので、その場はこれで解散となりました。
……ずっと放置してて、この中年腐ったりしませんよね?
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