転生するということ その2
「一番手っ取り早いのは……?」
誰知らず、ゴクリと唾を飲む音が聞こえました。それに対して、期待を煽るように少し間を取るガリオさん。
「その恐怖の瞬間を除いて、彼の記憶を一から再現しなおすことだ」
「それは手っ取り早いんですか……?」
「『一番の近道は回り道』と言うだろう」
なんか、こういうタイプの人が言うと、よく分からない格言もそれっぽい。
とか思わないのがオーナー。
「えー? せっかく微塵も記憶がないんだしさー。再現とかしないでテキトーにモパパッ! って作った方がいいんじゃないの〜? 誰かそういうのできる人、いるでしょ〜?」
モパパってなんだよ。あと海藻みたいにクネクネするなよ気持ち悪い。そして皆さんは、自分がやる仕事でもないのに「テキトーに」「その方が楽」「できるでしょ」みたいなことは言わないようにしましょう。
自分でマネジメントしたこともないのに、「モノノはミスばっかり」とか言わないようにしましょう‼︎‼︎‼︎
「いると言えば、他人の記憶を弄るようなスキルを持っている冒険者くらい、このギルドにはいるだろう。……よな?」
「いますね」
認識阻害系は戦闘から政治工作まで、使い勝手がいいですからね。数えるのに片手で済まない人数が在籍なさっています。
確認が取れると、首を斜めに振るガリオさん。え、何それは。満足の頷き? 不満の首振り?
「しかし、だ。このギルドにベストセラー作家はいるかね」
「作家ぁ?」
トニコの声はよく通るのが魅力ですが、こういう場ではリアクションがうるさい。
ガリオさんが確認するように視線を向けてくるので、私は首を左右へ。そんな戦闘に向いてらっしゃらない方はいません。
「そういうことだ。人一人の記憶、言い換えれば人生というストーリー。それを破綻なく書ける者がいなければならない。オーナー氏が言うようにモパパったとて、齟齬や歯抜けが多いのでは、内臓が足りない人間を作るようなものだ」
「グロ……」
ラクシャさんの引き笑いみたいな声がしました。私としてはモパパが共通言語になりつつある方が気になるのですが。
その全てを無視して、ガリオさんは淡々と話を進めます。
「つまり、だ。オーナー氏の要望どおり使える冒険者にするには、心身ともに十全な状態に持っていかなければならない」
「えー? 多少雑でもよくない? 僕だって人生の大体のことは覚えてないよ? 昨日の夜も飲みすぎて記憶がないし」
「オーナー氏はそれでいいかもしれんが、チート冒険者がいつ発狂するか分からん不安定さではたまらんだろう」
「うーん……」
さすがにオーナーも食い下がるのをやめた様子。オメェは最初から黙ってりゃいいんだよ! へっ!
「でも、再現ったって、どうするんです?」
オーナーが黙れば、トニコが口を挟む。でも、これに関しては私も気になります。
「私たちの誰もこの人のことを知らないし、かと言って本人も覚えていないんじゃあ……」
「そうだな……。であれば」
また少し顎に手を当てるガリオさん。
「知っている者のところに行くしかあるまい」
「……はい?」
「なに、難しい話ではない。こちらの世界に転生してくる者がたくさんいるだろう。それと同じことだ」
ガリオさんはなんてことないように手を振りますが、数々の転生者さんを見てきた私からすれば、
「えっ、それって、誰かがトラックに撥ねられて死ぬ、ってことですか……?」
「……」
「……」
「……ま、そうしなくてもいいようにできるスキル持ちもいるだろう」
「アンタも大概雑だな!」
露骨に目を逸らしたガリオさん。
「ま、まぁ、ただモパパっと彼がいた世界へ転生しても、大した成果は上がらないだろう。記憶を再現するのに必要なアイテムなど考えておくから、アワレー氏もそういうスキル持ちや、派遣する人材を見繕っておきたまえ」
「逃げるなぁ!」
超早口で人混みを掻き分け、どっか行っちゃいました。
「まったく。ガリオさんもテキトー無茶苦茶言ってくれちゃって! そんなのやれるわけないでしょ!」
腰に手を当てプンプンする私(かわいい!)を引き攣った笑顔で見つめるトニコ。
え? ドン引きされてるって? 違わいっ!
「じゃ、そういうことだから。よろしくねモノノちゃん」
「はぁ⁉︎」
オーナーが私の肩を叩いて無茶振りするのが、予見できていただけのことです。
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