転生するということ その1

「はぁ〜い、ちょっと注目〜」


カウンターでトニコと『ねればねるほど』なお菓子にキャアキャア言っていると、旅に出ていたオーナーが戻ってきました。

 彼が旅に出る、というのはお察しのとおり、いつものスカウト活動です。ですが、新しい冒険者候補を連れてきた時は、大抵まず私とだけ顔合わせのはず。

それが今回はロビーに入るなり大声で全体へアテンション。


「なんだろうね。お給料アップかな?」

「ボーナスカットじゃない?」


甘っちょろい予想をしているトニコに世の厳しさを教えつつ、ちょっと上体を傾け、彼女越しにオーナーを見ます。が、


「あれ? 冒険者がいない?」


彼のかたわらに人影なし。こりゃ本当にあるか、ボーナスカット?


「や、なんかしてる」


トニコが気づくのとほぼ同時、オーナーは「はいちょっとゴメンね〜」とか言いながら、長めのソファへ。腰掛け談笑していたユイトさんとクロードさんに退いてもらい、背中のを降ろします。

近寄って覗いてみると、


「オーナー、このは……」

「うん」


オーナーは額の汗を拭いました。



「今回スカウトに行ってた転生者」



が、


「……なんか、おかしくありません?」

「そうなのよ」


トニコの言うとおり。

目はバキバキに見開いて、口は半開き。ハァーッ、ハァーッと心臓が張り裂けそうな息を繰り返しています。なんだこの薬物中毒みたいな中年⁉︎


「見つけた時からでさ」

「へぇー」


へぇーじゃないよトニコ。オーナーもそんなモン拾ってくるんじゃないよ。慈悲深きシスターであるはずのアンヌさんすら、「元いた場所に返してきなさい」と聖母ならぬオカンになっています。


「誰か、なんとかできない?」

「えぇ……」


どう見たって無理でしょう。『なんとか』って、『どう』なってて『どう』したら『どう』なるのかも不明なのに。

ミネミタさんヒーラーカトリンさんヒーラーがお互いをチラチラ見たり、トラノスケさんに話しかけられてビゴさんが首を左右へ振ったり。

 みんながファーストペンギンを嫌がって「おまえが行けよ」の空気の中、静々と進み出たのは……



「ふむ、確かに、眠らせておくには惜しいの魔力を感じるな」



ドルイド剣士ガリオさん。相変わらず落ち着いているというか、見た目の割にオーラが年寄りというか。


「でしょ〜? やっぱり転生者だしねぇ。『聖者の遺骸腐っても鯛』って感じ?」


ドヤるオーナー。ちょっとキモいですね。


「で、彼はどうしてしまったんですか?」

「そうだな……」


キモいのを無視して話を進めるトニコとガリオさん。英断。そのまま彼は光る手を腐った鯛にかざし、何やら情報を読み取っていきます。ドルイドってすごい。本来何する人なのかよく知らないけれど。

 そんなドルイドリーディングの結果は……



「……分からん」



「分からん‼︎」


私たちがギャグ漫画の住人ならズッコケているところでした。

え? いつもギャグみたいな失敗してるだろ、って? こっちはマジメにやってんだよぉ‼︎


「私が分かっていない、というよりは……。そうだな、本人が分かっていない」

「え、どういうこと?」


ここでリーディングを切り上げたガリオさん。手近な椅子へ腰掛けました。


「メンタルが崩壊しているのだ。記憶だとか、そういう『人間としての中身』が消失している。相当恐ろしい目に遭ったと見る。全てを忘れ、受容する精神も閉ざすことでしか、耐えられなかったのだろう」

「それは、耐えられてるんですか……?」


私たちが真面目(?)に考察しているところに、


「えー? なんとかならないの? せっかくの魔力量なのに、もったいないよ。わざわざスカウトに行ったのにさぁ」


オーナーが口を挟みます。おまえの本音は後半が全部だろ! ホントにこの馬面ヒゲは……!


「ふむ」


対するガリオさんは、どうやら真剣に考えてくださる様子。いい人やでホンマ。


「スキルを持った人間が外側から働きかけ、記憶を戻させることはできるだろう。しかし、雑にそうしたところで、また恐怖の出来事を思い出してイタチごっこだろう」

「えぇ……」


じゃあもう無理じゃん……。諦めムードが満座(オーナー以外)に伝播でんぱしたところで、ガリオさんは右手を挙げました。


「まぁ待て。まだ手段があるにはある」

「本当かい⁉︎」


食い付くオーナー。こいつが魚なら、初めて釣りする人でも逃すことはないだろう、って食い付きっぷり。


「その方法って……?」

「うむ」


トニコに問われ、顎に手を当て考えを整理するガリオさん。


「一番手っ取り早いのは……」

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