ここは(今更)譲れない その7

 姉を勝者に据えることができ、男たちは見事目的を果たしたかに見えたのですが、


「で、なんでナオキは一発目のファイアボールを外したあと、次の一撃を出さなかったんだ?」


観客の誰かが疑問を口に出しました。


「そりゃ、なんだ。あれだけの高威力だ。連発できねぇんじゃね?」

「そもそも、どうして最初の一発外したのかしら?」

「それ俺も思った。アイオニロイも反応できてなかったら、『かわした』ってわけじゃねぇよな?」

「最初から照準が明後日の方向へ向いていたように思える」


さすがは力こそパワーな闘争の民。一般ギャラリーすら分析が細かい。


「そんなことより、私のテオさまが終始棒立ちだったのが気になるのよ! アイオニロイが迫っても、逃げも防御もしなかったわ!」

「テオ殿下って腕は立つし、そのうえナオキに稽古つけてもらってたし、まさかあの場面で固まっちまうタマじゃねぇよな?」

「そもそもあのチートで無敵なナオキが負けるわけねぇだろ! ファイアボール当たらなくたって、負けたりしねぇわ! ここ数ヶ月、殿下との稽古を見てきた俺には分かる!」


そしてついに、誰かがその言葉を口にしてしまいました。



「なんか、みたいに聞こえるね」



「「「「「!!!!!」」」」」


言い出した本人はテキトーに呟いた感じでしたが、


「だとしたら今回のこと、全部辻褄が合うぞ!」

「なんてこと⁉︎ なんてことなの⁉︎ でもそれしか考えられないわ‼︎」

「八百長だって⁉︎ ふざけるなーっ!」

「神聖なる“王位継承者選抜の儀”を汚したってことか⁉︎ 神と大地と国王を侮辱した者を許すなーっ‼︎」


そう、このトーナメント戦において、いえ、なんならスパルトーに来て数ヶ月。

最強無敵のチートぶりを見せつけてきたナオキさんが、今更現地の人間に負けるなど、どう考えてもあり得ない。それだけの認識を、彼はすでに勝ち取っていたのです。

そのせいでもはや、八百長なんかはすぐにバレるし、なんなら普通に緊張でポカやらかして負けたとしても、信じてもらえないような状態に。

だって、『優勝するため』って思ってたんですもん。『最終的に負ける』って最初から言ってくれれば、もう少しはありましたよ……。


その風潮と、怒りの空気を感じ取ったお二人。さすがに額を汗が流れます。


「な、なぁテオさま。俺たち、さっさとズラかった方がよくないっスか? このままここいたら、暴動起きて殺されちまわぁ……」

「アケアイモスの人間が儀を汚したのだ、私は甘んじて……」

「ゴチャゴチャ言ってねぇで逃げるぞ! アンタの覚悟は知らんが、俺は友人に死なれたくねぇぞ!」

「ナオキ……」

「ちゅうわけで……」



「失礼しましたサヨウナラ〜‼︎」

「「「「「待てやコラーッッッ‼︎」」」」」






「こうしてテオニポス王子はナオキさんに連れられて我が国へ亡命。あれだけ頑張って王位につけた姉も八百長への関与を疑われたし、『そもそも我々は八百長で決まった王など認めない』って言われて白紙。二人の数ヶ月は全部パーになっちゃったんだって」

「えぇ……」


涙全部引っ込みました。カウンターも拭かなきゃ。せっかくいい話だと思っていた余韻も全部吹き飛んでしまったので、もうこんな話は締めちゃいましょう。


「それは確かに大失敗だったね! 残念! お話は以上かな?」



「あと、ウチが『次期国王を決める』なんていう、一番内政干渉しちゃいけないところでコソコソやってたのがバレちゃってね。ちょっとスパルトーと状況になってるんだよねぇ」



帰ってきた声はトニコじゃない! 背後から! このネットリした響きは……!


「オーナー!」

「王位を弄ろうっていう意味じゃ、クーデターにも等しい行為ですからねぇ」

「だから私、『断る一択』って言ったじゃん!」


腕組み頷くトニコへ気を取られているうちに、オーナーは私の真横まで接近してきました。すごく、圧を感じる……。


「いったいどうすればいいんだろうねぇ?」

「私、悪くない……」

「誰が悪い悪くないより、ギルド存続のために、今どうするべきなんだろうねぇ?」

「えへへ、へへ、へ……。さぁ……?」


スパルトーに対してと、いつかオーナーが言っていた『仲裁してくれる後ろ盾』。対外折衝が忙しくなりそうです……。


そして、そのための旅費に、私のボーナスが……。



ぎゃふん。






『本日の申し送り:能ある鷹は爪を隠せ。頼むからマジで。   モノノ・アワレー』






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