ここは(今更)譲れない その6
「それではこれよりっ! “王位継承者選抜の儀”決勝戦を開始するっ!」
「オッオオオオーッ‼︎」
運命の時がやってまいりました。押しかけた民衆のボルテージも最高潮、今までは玉座の肘掛けにもたれて観戦していた国王すら前のめり。
その歓声と熱狂で押し上げられるように、円形闘技場東西の頂点にあるゲートがズズギギッと。振動でゲート横に架けられた
その奥の、光通らぬ廊下から、コツコツとくぐもった音を響かせ現れるのは……
「
「わあああああ‼︎」
「アイオニロイ! アイオニロイ!」
「ぶちかませーっ‼︎」
「アケアイモス人の意地、見せたりゃあ‼︎」
国民の声援を一身に受けて、美しき姫と英雄の登場です。
そして、
「毎度、空気震えてる感覚は慣れませんわ」
「そして、何度通っても、暗い廊下から明るい場所へ出るのも眩しくて慣れない、そうだろう?」
「違いねっス」
もう一方。王子だとか冒険者だとかはそこになく、ただ信頼し合う友人同士の会話とともに現れるのは……
「うおっ、眩しっ!」
「青方! 第四王子テオニポス‼︎ 及びその従者ナオキ‼︎」
「おあああああ‼︎」
「今回もファイアボールで秒殺だぁ!」
「ヘパトースもやったんだ、アイオニロイも敵じゃねぇ!」
「おまえが初めてこの国に来た時から、ただ者じゃねぇと思ってたんだ!」
「ここで勝って、晴れて真のアケアイモスの男に仲間入りしちまいな!」
「俺ぁアンタに全額賭けてんだぜ!」
「敵役の割に、案外人気っスね」
「力こそ力の国民性だからな」
「いかにもそういう思考回路の物言いっスね」
『勝たなければならない』もプレッシャーですが、『これから負けるのだ』も緊張を産むものです。だというのに、このリラックス具合。
きっとこの二人なら、どんな困難も超えていけることでしょう。
「では両者とも。この決闘は我らがアケアイモスの王者を決める神聖な戦い。死力を尽くすと、神と大地と国王に誓うか」
「誓います」
「誓います」
ナオキさん、結婚式みたいと思ったけど、さすがに言わなかったそうです。
「姉上」
「テオ。私は今まで、おまえほど愛した者はいない。しかし、ことここに至っては、それを忘れることにしよう。この場だけ、おまえは可愛い弟ではない。だからおまえが私を打ち倒そうとも、恨みには思わない」
「……」
「では両者、所定の位置について!」
数メートルの間合いをとって向かい合う両者。
「すまんナオキ、頼むぞ」
「いいってことっス」
(姉上……)
「はじめぇっ‼︎」
(力こそが全ての宮廷で、私に惜しみなく深い愛情を与えてくれた姉上……)
「『ファイアボール』!」
「むっ⁉︎」
「あああああ!」
「見ろっ! ナオキのやつ、ファイアボールを外したぞ!」
(誰よりも真の王者たる
「ぬおおおおおっっっ‼︎」
「……」
「アイオニロイが行った!」
「ナオキ! どうしたナオキィ!」
「どうして次のファイアボールを撃たねぇんだナオキィ‼︎」
(私の、大好きな姉上……)
「ぬんっ!」
「……」
「アイオニロイが振りかぶったぁ!」
「ナオキィ! 今更回避行動に移ってももう遅いぞ! そこはヤツの間合いだぁ!」
「待て! どうしてテオニポス殿下の方は微動だにしない⁉︎」
(今、
「そこまでぇ‼︎ 勝者! 第二王子コルコ‼︎ よって、アケアイモス次期国王は……!
コルコ・ラケダイモーンに決定ーっ‼︎」
「いい話じゃないの……ズビッ」
「モノノちゃんハンカチ持ってないの?」
一連の話を聞き終え、カウンターにボトボト涙を落とす私。ですが、対照的にトニコはすんとした顔。でもそれは、私の泣き顔に引いていると言うより、
「感動してるところ悪いんだけどさ」
「ん……?」
「これでおしまい、じゃないんだよね」
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