転生するということ その4
さて、それから二日後は風が強い日でした。砂煙凄まじく、用事もなく外に出る人は皆無。二人に一人は目が痒い鼻がムズい。
誰かの旅立ちを見送るには、嵐くらいミスマッチなお天気。
私がカウンターでトニコと殺しの七並べに興じていると、ガランガランとドアベルが鳴り、ギルドのドアが開け放たれ……
「ぶわぁっ! 風がっ! 砂がっ!」
「ぎゃああああ‼︎」
ロビー内に阿鼻叫喚を巻き起こし、トランプを吹っ飛ばしてゲームを台無しにした(負けてたので良しとします)来客は、
「やぁモノノちゃん。今日はレトルト食品ってのを仕入れてきたんだけど」
「カツヒコさん!」
待ち人来たる。できればもっと天気のいい日がよかったんですけども。
早速事情を話して、異世界転移に協力してもらうことに。
「ついにこの時が来た!」
なんかハイテンションで長い演説を始めたガリオさん。当然全カット。
「で、派遣する人間も決まっているのだよな?」
全カットしたので分かりにくいのですが、演説から急にこちらへ話を振ってきました。
「え、あぁ、はい。やはりあちこち回るならスピードが大事かと思いまして、足の速いライザスさんとメロスさんを」
「任せてください」
「この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。」
「覚悟が重すぎる」
「えー、二人も行くのぉ?」
「報酬ケチろうとするんじゃない!」
相変わらずなオーナーを尻目に、ガリオさんは少し首を傾げます。
「おや、そのチョイスなのか。私はてっきり、世界移動のできるカツヒコ氏が直接行うものだと」
「いや、俺は自分の商売があるし。暇じゃないし」
にべもなく手と首を左右へ振るカツヒコさん。
「であれば、転生者を送るべきではないのか? 彼らが元々いた世界なのだから、この世界の人間が行くより円滑に進むと思うのだが」
「あー、それはー、ですねぇ……」
私だって最初はそう思いましたし、片っ端から声をかけましたよ? でも、
「なぜか皆さん、元の世界へ帰ることを嫌がられるんですよね……」
「『意地でも帰りたくない』とか『元の世界の話はするな』とか、危うくモノノちゃんが殺されかけた時もありました」
「いや、さすがに殺されかけてはない……」
トニコ話盛りすぎ。怒って物を投げた方がいたくらいです。あれ? でも、転生者さんが投げた物が当たったら死ぬだろうから、やっぱり殺されかけてたのかな?
「ま、とにかく転生者さんは行ってくれないようなので、こうなった次第です」
「なるほどな」
という、わずかな疑問も解消したところで、いよいよ出発の儀です!
「ではカツヒコさん! 早速お願いします!」
「はいよ。じゃあライザスとメロスも、準備はいいな?」
「ま、旅行と思って楽しんでくらぁ」
「私は、信頼に報いなければならぬ。」
「よし、じゃあ、転移魔法発動!」
カツヒコさんが両手を突き出すと、床に魔法陣が広がります。
と、
「あ、ガリオさん。魔術具お二人に渡さないと」
「お、そうだったそうだった」
トニコが重要なことに気づきました。ここを忘れてたら、全部無意味になるところですよ。彼女はガリオさんから掃除機もどきを受け取ると、
「モノノちゃん、そっち持って」
「そんな重いの?」
「あ、意外と重くない」
「なんだよ」
私にも運ぶのを手伝わせました。
「カツヒコさーん、ちょっと待ってくださーい」
「あいよー」
片手を挙げて割り込むトニコ。一緒に転移させられたら、たまったもんじゃありませんからね。カツヒコさんに魔法を止めてもらっているあいだに、お二人に魔術具を渡そうと近づいた私たち。
と、その時。
皆さんもイメージありませんか? 魔法陣とか発動してる時、フオオォォって感じで風が渦巻いて、ブワアアアァァって。ありますよね?
今回の転移魔法もですね、ご多聞に漏れずそうなっていたんです。ゴオオォォッ! って。
で、ですね? 覚えてらっしゃいますか? 当日の天気。
そう、風が強くて、砂を巻き上げてヤバいことなってたんですよ。カツヒコさんがギルドに来た時、ロビーにガッツリ舞い込んでくるほど。
えぇ、つまり今、床には大量の砂が落ちていて、それが魔法陣に巻き上げられて、真正面のカツヒコさんへ……
「は、は……、はぁっくしょいぃ‼︎‼︎‼︎」
「えっ?」
瞬間、魔法陣が一際強く光って……
──ちゃん……
ん……何……もうちょっと寝させて……
──ノちゃん!
受付嬢はね……一人しかいないから……休みも滅多にないの……。惰眠を貪れるのは……貴重なことなの……
「モノノちゃん!」
「はぅっ!」
どうやら意識を失っていたようです。気がつくと私は、トニコの膝の上にいました。
「あれ? あ、そうだトニコ、メロスさんたちは無事、に……」
思わず言葉に詰まりました。だって、私たちがいるのは小高い山の開けた場所でしたが、
眼下には、写真でしか見たことがない、転生者さんたちの生まれた街が広がっていたのですから……。
「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁ‼︎⁇」
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