ソレは言えないのにコレは言っちゃうのね その2
かくして三人の、追放身のうえ話が始まりました。
先陣を切るのはダンさん。
「俺は昔いたパーティーから追放されたんだけどな……」
揺れる
「知ってのとおり俺はヒーラーなわけだが、まぁそれは前のパーティーでも一緒だったわけよ」
「そりゃそうだよな。お前のヒールスキルを使わねぇ手はねぇよ」
レミオロさんも腕を組み深く頷きます。逆にプリシッラさんは「分からない」というように両手のひらを上に。
「むしろ追放される理由が見当たらないんだけど?」
「今でこそ活躍を認められてるからそう思うかもしれねぇけど、俺のヒールって全自動回復だろ」
「しかも即時完全回復。助かるぜ」
「でもな」
ダンさんは自嘲気味に首を振ったそうな。
「そんなだから、みんな負傷したことに気づく前に、一瞬で回復しちまう。つまり俺が『目に見えてヒールを使ってる瞬間』ってのがなかったんだ。そんでパーティーメンバーに『なんのスキルも持っていない役立たず』『いなくなった方が報酬の山分けで得する』ってことで追放されたってわけさ」
「あー……」
鼻からため息を抜いたダンさんですが、周囲が同情的で気まずそうなのを見て、慌てて空気を取り繕います。
「気にすんなって! おかげで俺は今のギルドで楽しくやってるし! そう言やこの前故郷に顔出したら、元メンバーは全員冒険者続けられない体になってたよ。『自分たちは常に無傷でクエストを攻略する最強パーティーだ!』と思い込んでて、俺のヒールがあった頃の感覚で戦って致命傷負ったんだと。『治してくれ!』って頼まれたけど、ヒールがコントロールできるようになってたから突っぱねてやったよ。それで俺は溜飲下がったからもういいんだ、気にしないでくれ」
ダンさんはパンパン高い音で手を叩くと、レミオロさんを指差します。
「俺のはこれで終わり! 次はレミオロ! 嫌じゃなきゃ聞かせてくれよ」
こうなると空気を払拭するために、レミオロさんも話さないわけにはいきません。
パシッと膝を打って語り始めます。
「俺が最初いたギルドじゃ、パーティーレベルってのが出されるんだよ。それが全員の実力の平均値でさ。それで俺が知り合いと初めてパーティー組んで、いざ冒険者デビュー! ってなったら、まぁ初陣ヒヨコにはありえないレベルが出ちまったんだよな」
レミオロさんは腕を組んで一拍置きました。
「でもどうやらこれ、俺一人が平均を跳ね上げてたみたいでさ。そのあと一人ずつ受けたスキル鑑定で教えてもらった」
ここでもう一度間を置くと、彼はダンさんとプリシッラさんの目を見据えます。
「こんなことメンバーに言いづらいじゃん? 自慢みたいだし『俺とお前らじゃ差があるんだよ』ってことだし。だから言えなかった。そしてメンバーも誰一人そういう事実には思い至らなかった。『俺たちは天才なんだ!』と思い込んで、足元も見えてないままのデビューさ」
天を仰ぐレミオロさん。
「どのギルドでも、パーティーレベルやランクで選べる、いや、選んでいいクエストって違うじゃん? 上だけじゃなくて、下にも。だから、ルーキーであっても平均マジックのレベルでも、俺たちはそこそこレベルの高いクエストばかり受けることになったんだ。本来ならその辺、裏方がうまく根回しするもんなんだろうけど、場末のギルドじゃロクな事務方もいなかった」
よかったですね! 今は仕事ができて美人で気立がよくてお嫁さんにしたいランキング一位(当社調べ)で美人で(中略)何より美人な受付嬢がいて!
「当然、俺以外は即死級な魔物がウジャウジャ出る地帯へ派遣される。だから俺はさ、いつも仲間が寝ているあいだに近隣の強敵を全て排除、かつレベリングもしやすいように、ちょうどいい敵だけは残してお膳立てしてたんだ。で、その分昼間の戦闘は、レベリングの邪魔しないようにってのと夜寝てない分の休憩で、引き気味に参加してた。そしたら『こいつは弱い。役に立たない』って追放された」
そうですか、大変でしたね。人にはいろいろあるもんだぁ。
で終わっていればよかったのに、なんとダンさん、
「ふーん」
このリアクション。当然レミオロさんも引っかかります。
「ふーん、てなんだよ」
この時点でプリシッラさんもマズい予感はしたそうです。じゃあ止めてよ。
そのまま誰も止めないので、ダンさんは予感どおりの悪い方向へ。
いやん鈍感主人公♡ 言うてる場合か。
「いや、全自動でどうしようもなかった俺と違って、おまえのは余計なことしなきゃよかっただけじゃん、って」
あーっ! 言っちゃった! あー! 困ります! 冒険者さま! 困ります! あーっ!
これにはレミオロさんもプッツン。
「は? そういうおまえこそ、仲間にちゃんと能力の説明してりゃ済む話だったろコミュ障」
言っちゃったーっ! 原因はダンさんとはいえ、乗っちゃったー!
戦いのゴングは鳴り響き、こうなるともう誰にも止められない。
「んだと⁉︎ てかそれブーメランじゃね⁉︎」
「あ⁉︎ やんのかコラ!」
かくして二人はキャラバンそっちのけで大喧嘩を開始、プリシッラさんはメンドくさいので彼らを放置し、自分一人でキャラバン護衛を完遂したそうな。
「それは大変でしたね……」
「まぁクエスト自体は何も起こらなかったから、個人的にはそうでもないんだけどさ」
プリシッラさんはオレンジジュースを飲み干すと、グラスをカウンターに置きました。いや、ここ受付なんで、自分でバーまで持ってってくださいよ?
そんなことお構いなしに彼女は軽くあくびをすると、チラッと私に目配せをしました。
「大変なのはモノノちゃんの方かもよ?」
「えっ?」
瞬間、ガランガロンとドアベルがけたたましく鳴り、ターバンを巻いた口髭立派な集団が乗り込んできました。
「あちらは……」
「あ、もう来た。ほら、私が護衛したキャラバン」
それだけ短く呟くと、プリシッラさんは逃げるようにカウンターから離れていきます。だからグラスは持って行ってって。
彼女は去り際に憎たらしいウインクをして、ニヤリと私を励まし(?)ました。
「クレーム対応、頑張ってね?」
『本日の申し送り:一言多い者同士を組ませてはならない。 モノノ・アワレー』
面白かったら☆評価、「モノノちゃん哀れ……」と思ったらブックマーク、
「口は災いのモノノ」と思ったら両方をよろしくお願いいたします。
作者の励みとモノノちゃんのヤケ酒代になります。
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