ソレは言えないのにコレは言っちゃうのね その1

「ただいま〜」


カウンターで甘乳ミルクセーキを飲んでいる時のこと。

カラカラン、と軽やかなドアベルの音色を響かせたのは、追放令嬢プリシッラさん。白魔術の家系で黒魔術なんか極めるから追い出されるんですよ。でもまぁそのウェービーなピンクブロンドボブにグラマラスな体つき、淫魔みたいで黒魔術がお似合いだわなゲッヘッヘッ。


「お帰りなさい」

「無事、クエスト完了したわ」


報告がてら、カウンターに左腕を投げ出すプリシッラさん。


「喉渇いたしオレンジジュースもらえる?」

「承知しましたー、……あれ?」

「どうしたの?」

「いえ……」


おかしい。ドアの方を見ても一向に現れる気配がない。そう、



「ダンさんとレミオロさんはどちらに?」



一緒に行かせたはずの冒険者さま二名が、影も形もないのです。


 当ギルドでは基本、どれだけ冒険者さまがお強くとも、一人でクエストに向かわせることはいたしません。

保険です。実力的には心配なくとも、道中急にお腹壊すとかそういう方向で思わぬアクシデントがあるかもしれません。そうなった時に二人なら安心三人ならもっと安心。

この前パーティの保険で失敗してたとかは言うな。

言うな。


 というわけで今回のプリシッラさんにも当然、同行したパーティーメンバーがいるはず、というか他ならぬ私が編成したのですが……。


「あー……」


二人がいない現実に彼女の返事は少し歯切れが悪い感じ。これは何か盛大にマズいことが⁉︎

まさか当ギルド初の殉職者が⁉︎ 労災⁉︎


「一体何があったんですか⁉︎」


『クエストは完了した』とおっしゃったので追加の派遣はいらないでしょうが、連絡とか手続きとか、ご遺族や恋人がいらっしゃった場合にやることがたくさんあります。ここは絶対に何があったか聞き出さねば!

私がオレンジジュースのオーダーも忘れてカウンターへ身を乗り出すと、プリシッラさんは人差し指で頬を掻きながら、バツが悪そうに呟かれました。



「えーっとね、あの二人、喧嘩が終わらないから置いてきちゃった」



「喧嘩ぁ⁉︎」


彼女によると、どうやらことの顛末はこういうことだったそうなのです……。






 今回三人が任されたクエストはキャラバンのの護衛でした。

ひたすら何もない砂漠を山なり馬ラクダで横断し、盗賊やモンスターが現れたら撃退する任務。現れないならそれで良しな任務。

で、今回は現れなかったようなのです。つまり、


「暇だなー……」

「せめて景色でも変わればなぁ……」

「暑くておかしくなっちゃうわ……」


目的地に着くまで、なんら気を紛らわすこともできないまま、ただただ強い日差しに炙られ続けるクエストに。しかも当然、キャラバンの旅が一日で終わるわけはないので、それが何日も。

退屈ですよね。退屈ですよ。移動中はテーブルないからカードゲームもできない。そういうわけで三人は、知的生命体に許された原初の娯楽にたどり着いたのです。


そう、会話。


最近のクエストがどうだったとか、あそこの料理屋マズいよねとか、この前彼女怒らせたんだけど理由が分からないとか、

モノノちゃん可愛いよねとか(※重要※)。


 そうして三人は暇を潰していたそうなのですが、準備してきた怪談大会じゃあるまいし、数日話し通しているとだんだん話題がなくなっていきます。普段どんなにおしゃべりな人壊れたジュークボックスでも、一度話題が尽き、探し始めると途端に詰まってしまいますよね。


 そういう時に手っ取り早いのは何か、みなさんご存知ですか?

そう、共通の話題。困り果てた三人は、必死にお互いの共通点を探り始めます。

そしてダンさんが気づいたのです。


「あっ、そういえばさ」

「なんだ⁉︎」

「何⁉︎ なんなの⁉︎」


この食いつきからも、いかにこの集団が話題に飢えていたか、窺えるというものです。それはさておき、



「俺らって三人とも、元いた家なりパーティーなりを追放されたんだよな」



「あー、確かに」

「言われてみればそうね」

「じゃあさ」


話題に困ってるし、それに追放者の皆さんも本ギルドでは成功を収めているので、過去は笑い話に思っている方も多いです。ダンさんもただの共通項として、気楽に話を振ったのでしょう。



「二人はどういう経緯で追放されたん?」



こうして話題はついにセンシティブな領域身のうえ話へ。

あるいは、灼熱と退屈の砂漠でイライラしてさえいなければ、想定どおり軽い話題で済んだのかもしれませんが……。

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