美女と野獣Lv100 その1
「ゲホッ! ゲホッ!」
どうも、ベッドの上から失礼します。モノノ・アワレーです。
なぜベッドかと言われると、絶賛超高熱に苦しんでいるからです。最初に38後半出てからは、怖くてもう測っていません。ヤバいでしょ。死にそう。死ぬんかな?
え? おまえの命より受付業務は大丈夫なのか、って? ふざけるな‼︎
ゔゔん(咳払い)、ま、それは大丈夫ですよ。だって、
この街のほとんどが高熱で機能停止してますから。
冒険者の皆さまもご多分に漏れずダウン、ギルドは閉鎖され、業務自体がないのです。
だから私が寝込んでても大丈ブエッヘあああ‼︎ 体が全然大丈夫じゃねぇよ‼︎
あぁ、なんか眩暈してきた……。今回の
とか言ってますが、今の書いてる時点ではもう平気なんですけどね。
今回の件が『申し送り事項としてダイアリーに書かなければならない事態だった』と判明してから書いているわけですし、それが寝込んでいる当時に分かるわけないし。あの日の苦しさを思い出しながら書いてみましたとさ。
え? 無駄に読みづらい演出入れるなボケナス、って? ……こんな自分の失敗日記、せめて遊びを入れないと書けたもんじゃないんですよ? 報連相も立派な仕事だから、仕方なくやってるんですよ? だから少しくらい、いいじゃないですかぁ……。
はい、私のしょうもない自己満足に付き合っていただいたところで、話を本筋に戻しましょうか。
地獄の底で苦しんでいると、不意に玄関の鍵が開きました。『看病に』と私のアパートの鍵を持っているのは、
『モノノちゃ〜ん、お加減いかが〜』
すっかりお馴染みトニコです。防護服、ゴーグル、カラスのくちばしみたいなマスクと、面影皆無な格好をしていますがトニコです。彼女はパンデミックの影響を受けずに健康だったため、私の看病を買って出てくれたのです。いいよな、馬鹿は風邪引かなくて。
「元気に見える……?」
『食材買ってきたよ〜。パン粥作ったげる〜。食べないと元気になれないからね〜』
「聞いといて無視かよ」
『キッチン借りるね〜』
マスクで声がくぐもるからか、妙に間延びした喋り方をしてくるトニコ。少しでも聞き取りやすいようにという配慮、なんでしょうか? ちょっと年の離れた弟がいるからか、そういう気遣いというか、面倒見の良さは結構あるタイプです。いいなぁ。私は一人っ子。無限に甘やかしてくれるイケメンなお兄ちゃんが欲しかった。
おや、熱で思考が溶けているうちに、なにやらいい匂いがし始めましたよ……。
『は〜い、ミルクパン粥だよ〜。召し上がれ〜』
トニコがお盆を持ってきました。なにやら複雑な香ばしさも感じるので、おそらく異世界商人カツヒコさんが売ってくれるコンソメキューブを使ったのでしょう。
『何時間も具材煮込まないと作れないのが、お手軽ポン! だもんね〜。便利便利』
立ち上る湯気、細かいパセリの緑が映える白い表面、ミルクとコンソメの香りが目の前に差し出されました。正直食欲はありませんが、トニコ本人を含めて優しさの塊を出されると、一口二口くらいは食べてみたくなるもの。
「うぐっ! あちっ」
『ちゃんとフーフーしないから〜。風邪で判断力鈍ってるよ〜』
「うるさい」
改めて口に入れると、
「ママ……」
『ママ!』
私のうっかり発言にトニコの目がまん丸く……、あ、ゴーグルか。
とにかく、パン粥の中にはママがいました。温かく食道を通り抜けていくのが手に取るように分かる、体の内側から私を支えてくれる愛情。ママ……。
ママがパン粥作ってくれたことはないけど。
私が幻想の愛情に心震わせていると、トニコはベッドサイドへ椅子を持ってきて腰掛けました。そして、
『そうだそうだ、今日は看病だけに来たわけじゃないの。この疫病の正体と、急に流行った原因が分かったんだって!』
人がせっかく感動しているのに、無粋な話を始めました。でも気になる。
「へぇ。一体全体どういうわけなの?」
私が食い付くと(粥ではなく話題に)、トニコもグッと身を乗り出してきました。
あ、この勢いは嫌な予感がする。マスクで全然顔見えないけど、多分いつもと同じ顔してる。
『この前のパルティアマーダ島のクエスト!』
「またウチの案件かよ!!」
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