せめて悪霊が聖徳太子だったなら その1
「あの……、ちょっとよろしいですか……?」
「あ、はい」
カウンターで焼き菓子を食べていると、一昨日クエスト発注に来られた方が、青い顔してお越しになられました。
近所のボロ教会で働いているとかで、元々不健こ……節制と清貧が行き届いたお顔の中年男性でしたが、それがこの短い期間で吸血鬼みたいな色に。もっと日光浴びて。
というのはさておき、受付が詰まるとギルドの血管が詰まるので、さっさと対応を済ませてしまいましょう。依頼の内容は仔細バッチリ頭に入っていますが、『クエスト
よし、これで準備OK。有能受付嬢スマイルを浮かべて対応開始です。
「本日はいかがなされましたか?」
「あの……」
依頼人の男性はうつむき加減でボソボソ。元から悪い顔色が、影になって余計冴えない感じ。
さらに輪をかけて冴えない声色で、彼はこう続けました。
「いつになったら家に帰ることができるんでしょうか……?」
「はい?」
家に帰れない? 鍵でも落としたんでしょうか? それとも奥さまと喧嘩して追ん出された?
そんなの私に聞かれても、「明後日くらいですかね(適当)」とか答えられませんよ。鍵屋さんか
え? 何? それともまさか、当ギルドの誇るチート冒険者をして、しかも移動に時間を取られない近所のクエストすら、未だに……?
「確かあなたは……」
「一昨日、『屋敷に住み着いた悪霊を祓ってほしい』と依頼を出したのですが……」
「はい、存じております」
私の記憶と記録によれば、その案件はすでに除霊のエキスパートである
大天使ファイエルの加護を得ているシスターアンヌと、元いた世界で最強の陰陽師の弟子だったらしいモモタロウさん。この二人が派遣されていながら除霊できないことなど存在するでしょうか?
いや、ない(反語)。
となると、はて、どういうことでしょう?
「もしかして、派遣した冒険者が到着していない、のでしょうか?」
ありえない……話ではないのです。同じ街の中、こんな近場の依頼でも。
我がギルドに所属する冒険者さまは、とにかくトラブルに遭遇しやすい。ナントカ補正というものでしょうか。主人公歩けば人助けに当たる。
そういうわけで、割といらっしゃるのです。目的地へ向かう途中、なんやかんや脇道に捕まる人。タイムリミットがないクエストの最中とかだと、そっち行っちゃう人。優しい人が多いのね。
それで本命には遅れるし、人助けしたあと感謝の接待攻めに捕まった日にゃあ、一日単位余裕で日程ズレます。
結果、依頼人から怒られるのは受付の私です。
しかし今回は……、
「いえ、そうではないのですが……」
「違う⁉︎ ではまさか返り討ちに⁉︎」
依頼人さん、首を左右へ。
???どういうこと???
「となると……」
どんなに薄い線でも、残された可能性をとりあえず絞り出してみましょう。
派遣された二人は到着した。悪霊に負けたわけでもない。でも依頼人はまだ家に帰れない→除霊できていない。つまり……
「……まだ除霊が終わっていない?」
「はい」
ようやく彼も首を縦に。てか、それならそうと早く言えよ。クイズや推理小説やってんじゃないんだぞ、こっちは。
とカリカリしても仕方ない。怒る暇があったら、行き詰まっている原因を解明いたしませんと!
そしてそれを解決できる人員をすばやく派遣する! 手厚いケアでお客様に許してもらう! 少しでも我がギルドの失点を減らす!
そうすることで私のマネジメントミスへの叱責を減らす‼︎
守れボーナス‼︎
というわけで、依頼人さんが見たかぎりの話と、連絡員を派遣し見てもらった話をまとめてみると、除霊が終わらないのはこういう顛末だったそうなのです……。
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