えっ、今からでも入れる保険が その4

 それから一行は、謎のキノコや木の実を口にしては


「あっ! ヤバッ! 腹痛ぇ!」

「ミネミタ!」

「『父なる神よ、我ら子をその慈悲深き光で……』」



「むおっ……! なんか、目眩めまいが、おぉ……!」

「『導き助けたまえ、さいな艱難辛苦かんなんしんくを……』」



「は、は、吐き気が……」

「ウブッ! ミネ……」

「『遠ざけたまエェェエエエエオエッッッ!!」

「吐いたーっ‼︎」


ミネミタさんの治癒に全賭けで、強行突破していったのです。


しかしある日……。






「うっ!」


最初に異変を感じたのはマーゴットさんでした。


「う、う、腕が、痺れて……!」


お昼ご飯にしたシダっぽい葉っぱがよくなかったようです。あとで聞いた話、どうやら狩りや戦争にも使われる神経毒が含まれているそうで。

隣を見ると、ダミヤンさんも青ざめ震えて様子がおかしい! これはダメなヤツだ!


「ミネミ……!」


マーゴットさんが予定どおりヒーラーへSOSを求めると、



「……! …………‼︎」



ミネミタさん、何やら喉や口の中へ手をやってバタバタしています。


「ミネミタ?」

「……! ‼︎」

「どうした、早く治癒の聖句を……!」

「‼︎‼︎」

「ま、まさか……」



「「舌が麻痺してるのか⁉︎」」



必死に首を縦に振るミネミタさん。男たちの青ざめがワンランクアップします。


「お、おい、ダミヤン! ミネミタが返事もできねぇぞ⁉︎ どうすんだ⁉︎」

「どうすんだって言われても……」


屈強な鍛冶屋はすでに、力なく地面に座り込んでいます。女の子座り。


「お前が言い出したことでこうなってんだぞ⁉︎ なんか次の策はねぇのかよ⁉︎」

「そうだな……、腹を括る、とかどうだ……?」

「クソ野郎!」

「……! ⁉︎ ……、…………」

「ミネミタぁぁぁぁぁ‼︎」


安らかに崩れ落ちてしまったミネミタさん。それを見て絶望確定、心の糸が切れたのか、


「ほな、また……」

「ダミヤアアアアン‼︎ テメェ待てコラアアア‼︎」



 ほどなくして、一行は痺れ毒によって壊滅したそうです。幸い東部ポーマートが目と鼻の先な位置まで来ていたので、すぐに発見され事なきを得たそうですが。






 トニコの長い話はそこで終わりました。私はというと、


「それは大変でしたねぇ〜」


爪ヤスリ再開。大変な話でしたし、身内の冒険者パーティーが全滅とあって心配ではありますが、私がジタバタしたって意味はありません。ま、一刻も早く回復されることを祈って……


「なに暢気なこと言ってるの?」

「へ?」

「ダミヤンさんたちは病床で口々に『せめてもう一人ヒーラーがいれば……』って言ってるのよ⁉︎」

「えっ、これ私が悪いの?」

「ヒーラー一人編成にしたの、あなたじゃない」

「へあっ⁉︎」


いやいやいや、おかしいおかしい! こんなの想定してない事態だし、ヒーラーもう一人いたって一緒に痺れたら同じ末路だし、何より彼らの判断ミスだし!


私が言葉より先に手をバタつかせていると、


「モノノちゃ〜ん」


頭上から胡散臭さの塊みたいなオーナーの声が。


「はっ、はいぃ!」


私が振り返れずに背筋を伸ばすと、彼はそのまま平板な調子で続けました。


「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「へ、へ、へへへ〜い……」






『本日の申し送り:保険がないパーティの組み方をしてはならない。   モノノ・アワレー』






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