えっ、今からでも入れる保険が その3

「ほーら言わんこっちゃないぜ! これからどうすんだよ俺たちゃあヨォ!」


最後の食料を前にしたマーゴットさんの叫びが、冬に片足突っ込んだ森の静寂を引き裂きます。この状況じゃ、さすがに道化師も笑えない。


「いや、だから策があるんだって。安心しろよ」


対する元凶ダミヤンさんは、ミネミタさんと焚き火を囲んで余裕綽々しゃくしゃくの表情。これにはマーゴットさんも食ってかかります。


「じゃあ安心するためにも今すぐ、その『策』ってヤツをご教示いただきたいモンですなぁ⁉︎」


ダミヤンさんは膝をパンッと打つと、お気楽な調子で答えました。


「なぁに、要は現地調達さ」

「現地調達ぅ?」


マーゴットさんはダミヤンさんの正面に腰を下ろすと、焚き火で炙られた串刺し干し肉をヤケ喰い気味に口へ運びます。


「なんだ。魔物でも仕留めて肉食うんか」

「いけません、魔物の肉は!」


声を上げたのはミネミタさん。僧侶だけあって宗教的なが多いのです。大変ですね。私なんか魔物肉も酒も暴飲暴食もするというのに。

それはさておき、


「もちろんミネミタの事情もカバーしなけりゃならん」


ダミヤンさんの策にはまだ、続きがあるそうです。彼は椅子代わりの岩から立ち上がると、近くの木の根元にしゃがみ込みました。そして戻ってきたその手に握られていたのは、


「キノコ?」

「そう、キノコだ。他にも木の実とか、まだ残っている秋の名残りで食い繋ごうじゃねぇか」

「待て待て待て待て!」


マーゴットさんは慌ててダミヤンさんの手からキノコをひったくります。


「どうした。これならミネミタも食えるだろう?」

「はい」


視線を向けられた彼女もゆっくり頷きますが、マーゴットさんはキノコを焚き火へ放り込んでしまいます。


「馬鹿かオメェ⁉︎ キノコや木の実ってのは、毒を持ってるやつが大勢あるんだぞ⁉︎ 特に魔物が住む『黒森』じゃ、魔力やら瘴気やらに当てられて、特別厄介なのが多いはずだ! 専門家じゃねぇ俺らが見分けもつかずにポイポイ採って食ってたら、あっちゅう間にヤツらの肥料、短いサイクルで完結の食物連鎖になっちまうぜ⁉︎」


マーゴットさんは毒かもしれないキノコを触った手を水で洗いながら、先ほど半分かじった干し肉の残りを頬張ります。


「それに、食えるモンは住民が越冬のために回収してんだ。残ってんのはほぼ毒だぜ」

「分かってるさ。そこでミネミタの出番だ」


しかしダミヤンさんはよどみなく答え、視線を小口でチマチマ干し肉かじっているミネミタさんへ移します。彼女は事前に協力要請されていただけあって驚きはしませんが、頷いたりもしないあたり、内容までは聞いていないようです。

こういうのって普通、事前に話しとくもんじゃありません?


私の意見はさておき、ダミヤンさんが発表した作戦内容とは、


「ミネミタは一流の僧侶だ。解毒や治癒はお手のもの。だから毒や食当たり、病気になった場合もすぐに回復させることができる」


まぁ、僧侶とくれば、そうなりますよね。


「確かに私なら可能ですね」


えぇ、物理的には可能な話です。そしてミネミタさんも乗り気なようです。

が、


「おいおいおいおい! 正気かオメェ⁉︎ そんな自滅技みてぇな手段⁉︎」


これが常識的なリアクション。まさかよりにもよって道化師が一番普通とは。

しかしそんな声が届くことはありません。


「ゴチャゴチャ言うなっ! もうこれしか手段がないんだよ! でなきゃ食うもんなくて餓え死にだっ!」

「誰のせいだよ!」

「そもそも! もしかしたら運よく当たらないで済むかもしれないだろ⁉︎」

「いやあああぁぁぁぁぁ‼︎⁇」


こうして、ジンギスカン作戦並みに地獄の行軍が、幕を開けたのです。

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