あぁ……女神さま…… その3

「こいつが俺のフェルメースだ」


そういえば、転生陰陽師モモタロウさんから聞いたことがあります。

彼の元いた世界なんかだと、『習合しゅうごう』といって、違う宗教の神様が合体したり吸収されたりすることや、ある神話の神さまが別の神話に違う名前で登場したりすることが多いそうです。

前者だとイチキシマヒメ? とベンザイテン? 後者だとギリシャ神話? のアテネ? とローマ神話? のミネルヴァ? みたいな。

名前うろ覚えだし、そもそも例を出されても分かりません。

マツトーヤ・ユミ? とクレタ・カルホ? みたいなものだともおっしゃってました。こっちは分かりません。


とにかく、フェルメースとメルキュリウスは別名義なだけの同一人物、もとい女神だったのです。それだけならまぁ、よくあることなんですが問題は……


「おいおまえ、散々『あなただけ』みたいなこと言って」

「ちゃっかり二股かけてくれてたんだね……」

『へ、へへ、ごめんね?』


別にお二人だって、ただ女神が複数の使徒を抱えるだけなら、こんな処女性にうるさい宗教みたいなことは言わなかったでしょう。

でも今回は誘い文句がねぇ、騙す気満々の方便だったのはねぇ。


でももしかしたら、それだけならよかったのかもしれません。ギリギリ。

問題は女神が苦し紛れに繰り出した、この発言でした。


『ま、まぁ、そんなにカッカしないで?』

「あ?」



『お詫びに二人とも、イイコトしてあげるから、ね?』



女神的に悪気はないし、性格からかんがみても、過去何度もこれで乗り切ってきた何気ない言葉だったのでしょう。ですが……


「ふ」

「ふ」

「「ふ……」」

『ふ? なに? ふふふ?』



「「ふざけんなこのビッチが‼︎」」






「で、どうなっちゃったの?」


先を促すとトニコは、左手の指で輪を作り、穴へ上から右手をスバッと差し込みます。


「二人は女神をボコボコにして、泉に叩き込んじゃったみたい」

「えぐぅ……」

「引いてる場合じゃないよ!」


トニコは『女神を泉へ沈めたジェスチャー』のままカウンターへ左肘を置き、詰め寄ってきました。


「そのせいで呪いは解けてないし、依頼人から『まだ?』って手紙が来てるし、キッコリーノさんとタキトウさんは『女神と縁切ったから冒険者もやめる』とか言い出すし……って、なにしてんの?」

「ちっ」


カウンターに隠れてコッソリ荷物をまとめていたのが、目敏い彼女には見つかってしまいました。彼氏の浮気とか見逃さなさそう。


「……もしかして、逃げる気?」

「……へへ」

「……」

「……」



「逃げるなーッ! 『困難』から都合よく逃げるんじゃあないッ‼︎」

「私は悪くねぇ! 私は悪くねぇーッ‼︎」



トニコがカウンターへ乗り上げて私の肩をつかみますが、荷物はまとめたので流行りの『もう遅い』!


「貴様の腕力ごときでこの私が止められるものか! 私を止めたければ……」

「あ、モノノちゃん。ちょっと話があるんだけど、僕の部屋に来てくれる?」

「あ、あ、その声は……」

「今すぐ」

「オーナー……」


止まるぞ……。






『本日の申し送り:同担拒否。   モノノ・アワレー』






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