あぁ……女神さま…… その2
キッコリーノさんとタキトウさん。お二人は女神の加護もあって、特に呪いを受けることなく
そこには、おそらく古来から変わらない神秘を
「『深い森を抜けると……』か。神話か秘境の絶景か、だな」
「バヌアツのブルーホールみたいだ」
なるほど美しい光景に自然の神秘と悠久を感じるべきなのでしょうが、お二人は仕事で来ているので後にしてもらいましょう。
「じゃあまずは女神さまを呼んで、土地の呪いを解いてもらって」
「泉の女神も兼ねてもらえるか、のお伺いだね」
タキトウさんが相槌として頷くも、キッコリーノさんはなんだか渋い顔。
「どうかした?」
「それなんだけどなぁ……」
斧使いらしい太い首が、困ったように右斜めの角度。
「俺のフェルメースさまは、なんか個人的に俺がタイプだったらしくて『俺だけに特別の加護をする。俺だけを守護する』っておっしゃるのよ」
「それは僕のメルキュリウスさまも一緒だけど、それがなにか?」
「つまり、さ」
しゃがみ込んで青い水面を覗き込むキッコリーノさん。さすがに『呪われている』の風聞から、触ったりはしないようです。
「もちろんお願いすれば土地の呪いくらい解いてくれる。だが泉の、『俺以外のもの』の女神になることまで許容してくれるのか、ってことよ」
「あー、確かに」
どうやらタキトウさんにも思い当たるフシがあるようで、曖昧な表情で頷きます。
「そう言われると、僕も不安になってきたな」
「だろ? 『私の全てを使って、あなただけを守るわ』『私、他にはもうなにもいらない』『だから私だけの使徒になって』とかお熱い言葉口走るレベルだしなぁ。おまえの女神さまはどうよ?」
「うーん、こっちも『もう私はあなただけのものよ』『あなただけがこの世の全て』『だからあなたにも契約して全てを捧げてほしい』とか歯の浮くようなラブコールするしなぁ。難しいかなぁ」
「だよなぁ」
うーん、と腕を組み悩ましく眉根を寄せるお二人。
しかし、こういう時は案ずるよりも産むがやすし! 私はそうしてマネジメントをこなしてきましたよ! そこ!! 死産が多いとか言わない‼︎
私のことは置いといて、お二人は
「まぁとりあえず呼び出してみようや」
となったようです。
「フェルメースさま」
「メルキュリウスさま」
「「おいでください!」」
片膝を突き、両手を組んで祈る二人。すると天から薄明光線が差してきて……
『はいはーい! 呼ばれて飛び出てメルキュリウス、よ……』
なんかノリの軽い女子高生みたいな女神さまが、なぜか後半歯切れ悪く降臨したそうな。
そして、
「あれ? キッコリーノさん、君の女神さまは?」
「……」
『……』
「?」
「……おい」
なぜかフェルメースが降臨しないことに、困惑よりは怒りが滲み出るような表情のキッコリーノさん。なぜかこちらと目を合わせようとしないメルキュリウスに向かって、淡々と低い声をぶつけます。
「メルキュリウスだって? フェルメースさんよぉ?」
「えっ?」
これにはタキトウさんも驚きを隠せません。慌てて女神の方を振り返りますが、やはり視線が合わない。
「メルキュリウスさま?」
『フヒュー、ヒュー』
鳴っていない口笛で乗り切ろうとする女神。キッコリーノさんが肩をつかんで無理矢理こちらを向かせました。
『やん! やめて!』
「おいタキトウ、こいつがメルキュリウスなんだな?」
「そうだけど、まさか……」
「そうだ。そのまさか」
キッコリーノさんは首をひねって視線を合わせないようにする女神の顔を両手で挟んで、正面から睨みつけます。
「こいつが俺のフェルメースだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます