あぁ……女神さま…… その1
「モノノちゃん!」
カウンターで錬金術師ビゴさん特製胃薬の残りを数えていると、お昼ご飯買いにいっていたトニコが、便箋片手に息を切らして駆け込んできました。
こんな時こそコイツの出番! この前カウンターに(自費で)取り付けたシャッターを素早く下ろしシャットアウ……
「ふんぬぅ〜……‼︎」
ギリギリ手を滑り込ませたトニコ、持ち上げようとしてきます。私も必死に力を込めますが、重力の応援を借りても彼女を仕留めきれない!(危ないので皆さんは絶対にやめましょう)
残った隙間からトニコが顔を覗かせます。いろんな意味ですごい笑顔。
「ちっ……、しぶといやつ……!」
「ハァイ、モノノォ……! お話してくれないのかい……?」
「私モノノ……! マジメでステキな受付嬢……! 仕事中は私語をしない立派な社会人なの……!」
「……」
「……」
お互い腕が震えてきました。トニコのこめかみには青筋立ってるし、多分私もそう。
「シャッターを開けろーッ‼︎ 私は『話がある』と言っているんだーッ‼︎」
「鬱陶しいやつ! 私の前からいなくなれーっ‼︎」
ス◯ンド使いもニュータ◯プも引き寄せ引かれ合うという点では同じだそうな。多くの転生者さんがそうおっしゃいます。異世界のマンガ・アニメっていうものをよく見せてもらいますが、おもしろいですよね。タブレットとかいうの便利。
ま、そんなことはいいんです。
「BAAAAOHHHHHHH‼︎」
謎の奇声とともに私のAT免許フィールド(シャッター)を跳ね上げたトニコ。
「馬鹿なっ……⁉︎ このモノノの」
「もうマンガごっこはおしまい! まじめな話!」
「ちぇっ」
先に始めたのはトニコじゃないのよ。わざわざ『このモノノの』とか ビミョーに言いにくいセリフまで噛まずに言えたのに。
ま、いいでしょう。これ以上ゴチャゴチャやってても、冒険者の皆さまに変な目で見られますし。いい加減ちゃんと話聞いてやりますか。大体察しはつきますけども。
「で、なに?」
「この前の『禁足地オド』のクエスト!」
「……またなんか問題発生した?」
「うん‼︎」
「もぉやだぁぁぁぁぁ‼︎」
まただよ! 分かってたよ! どうしてこうなるの! もっかいシャッター下ろしてやろうか!
えぇ、そのクエストももちろん! このモノノが! 冒険者をマネジメントして! 派遣しましたよ! 考えに考え抜いて! あ、いや、そこまで考えてはないかも。
それはそうと、『禁足地オド』。説明いたしましょう。
北の隣隣隣街外れにある、
昔、遥か遥か昔。そこには泉を信仰する人々が住んでいて、森林も広くなく集落がありました。そして泉には本当に物言わぬ女神さまが住んでいて、住人たちと土地を守っていらっしゃいました。
しかしある時、住人たちが泉を荒らすようになったのです。
地球石の泉と言いますが、これは比喩でもなんでもありません。実際に細かい細かい粉状の地球石が泉の水へ溶け込んでいるのです。
それを濾過して残った粒子を絵の具や染料として売る。そんな金儲けを覚えた住人たちは泉への敬意を失い、水を無遠慮に汲み取るようになったのです。
結果、女神は大激怒。
『おまえたちが信仰も、自然も、それが生み出した奇跡も、全てを金のため犠牲にするなら! 私はおまえたちから金以外の全てを切り離すだろう!』
最初で最後のお言葉。それを残して女神は泉を去り、一帯はすぐに人が住めない土地となりました。水や作物は毒素を含むようになり、空気や動物は疫病を媒介する。
結果、住人たちは新たな住処を求めて旅立つことを余儀なくされ、オドは数えきれない季節を『禁足地』と過ごしてきたのです。
その間に集落の跡は風化し、木々がそれを飲み込み、見た目もザ・禁足地に。
しかしここ最近、隣隣隣街の子どもがオドへ行っては被害を受ける事件が続いたのです。それで『そろそろ禁足地にするのではなく、オドの呪いそのものを根絶しなければならない時が来たのではないか』という論調が広まったのです。
そこで白羽の矢が立ったのが当ギルド。私が選んだ人材は斧使いキッコリーノさんと転生者タキトウさんでした。
お二人はそれぞれフェルメースとメルキュリウスという泉の女神から、唯一にして無二の深い寵愛を受けている使徒。泉の女神の呪いは泉の女神で相殺、あわよくばオドに降り立って地球石の泉の女神になってもらおうという算段です。
ね、完璧でしょ?
「で、なにが問題だっていうの? 聞きたくないけど」
「それはね……」
トニコによると、どうやらことの顛末はこういうことだったそうなのです……。
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