流し目でズキューン♡ その4

 姫が大変なことに。

これには隊長以下部隊全員、なんならユキヒロさんでさえも青ざめます。何せ姫が取り返しのつかないダメージでも負っていようものなら、単に「作戦失敗か!」で済まないのですから。もっと具体的に言うなら、王のお怒りが……。

隊長が上擦うわずった声を張り上げます。


「姫に何かあったのか⁉︎ 怪我か⁉︎ ご無事なのか⁉︎」


対する返事は、逆にちょっと声が低いようです。緊張ではなく困惑、といった感じの。


「ご無事です! ご無事なのですが、その……」

「じゃあなんだ!」



「パニック! パニックです‼︎」

「パニックぅ⁉︎」



「パ◯ソニック……」

「何か言ったかユキヒロ殿」

「あっ、いや、別に」

「とにかく来てくださーい!」

「そ、そうだな。急ごうユキヒロ殿。おーい! 縄梯子を下ろしてくれー!」

「あっ、いらないです。確か転移スキルとかあった気がする」


こうして巣穴に踏み込むことになったユキヒロさんですが……。






「いやあああぁぁぁぁぁ‼︎」

「姫っ!」

「近寄らないでぇぇぇ!」

「こ、これは……」


はい。純然たるパニックです。あ、純然たるって言っちゃったら、本来パニックって言葉は集団に対して使うので個人には(以下略)。


それはさておき、長時間ドラゴンに拉致され、王宮育ちが汚い洞窟に押し込められ、で限界だったのでしょう。そこに陽動作戦で大きい音が響き渡るわ煙が流れ込んでくるわで、精神が向こう側へ行ってしまったご様子。

どう見てもドラゴンではない自国の兵士すら拒否する、重度の錯乱状態です。


「もう大丈夫です! 落ち着いてください!」

「やああだあああぁぁ!」

「姫! 私です! 騎士団長のヴォシレです!」

「ぎゃああああああ‼︎」


指先が肩に触れただけで大絶叫。隊長もお手上げというように首を左右へ。


「どうにかならんか、ユキヒロ殿……」

「そうですね……」


煩悩の数が裸足で逃げ出すほどのスキル量を誇るユキヒロさん。彼ならば何か解決の糸口を持っているはず! 導き出した答えは……


「つまり、我々が恐怖の対象でなくなればいいんですよね?」

「それはもちろんだが、おそらく今の姫は動物ならビビり散らすぞ」

「大丈夫です」


力強く言い切ったユキヒロさん。腰を抜かして震え上がる姫と、しゃがみ込んで同じ目線の高さになります。そして目を見る……。


「何をしているのだ?」

「『スキル:魔眼』を使って姫に魅了チャームをかけます。とりあえず俺のことを恐れなくなる、どころかベッタリ離れなくなるから、連れて帰るにはちょうどいいでしょう」

「なるほど……」

「大丈夫、城に着いたら解きます」

「それなら安心だ」


そんな会話をしているうちに、怪しいマゼンタの輝きを放つユキヒロさんの目と同じ色に染まる姫の瞳。

これで一件落着、多彩なスキル万歳!


と思いきや……



「おぉっ⁉︎ これはどうしたことだ⁉︎」

「えっ? えっ? ちょっと待って、こんなの知らない! 聞いてない!」



素っ頓狂に慌て出す隊長とユキヒロさん。周囲の兵士たちも右ならえ。そうなるのも無理からんことです。何せ、



「姫ぇぇぇ‼︎」



見る見るうちに姫が石化していったのですから。



「貴様ァ! どういうことだ!」


隊長がユキヒロさんの胸ぐらを掴みます。それぐらい強気にドラゴンと当たってくれてもいいのよ?


「し、知らない! はっ、まさか⁉︎」


何かに気づいた様子のユキヒロさん。そうです。そのまさか。






『どっちがより長持ちするかとか判断できるわ』

『もう覚えられないんですが……』


『あとは、そうね。ちょっと待ってて。漫画とかラノベ読んで目ぼしいもの見繕ってくるから』

『zzz……』


『あと何があったっけ? あれー? なんかあったよな? つうか、勝手に発動してる結構あったよな。発動条件とか近いの併発するクセ直さないとな』






スキルが多すぎて、大体のことをだったユキヒロさん。

それゆえに知らないスキルを制御できずに使ってしまうこともあったユキヒロさん。



『目が合った相手を石化させるスキル』を持っていたことが、頭に入っていなかったのです!



「貴様! まさか姫を暗殺しにきた敵国の手先か⁉︎」

「誤解だ! ワザとじゃない!」

「問答無用! 皆の者! こいつは姫を攻撃した敵だ! 召し取れ! 討ち取ってもかまわん!」

「うわあああああ⁉︎」






「で、その場からは逃げ切ったのはいいけど、テロリストとして国際指名手配になっちゃったみたい」

「あーあ……」


まさかそんなことになるとは……。

スキルさえあれば解決、となったら苦労しませんよねぇ。天才マネジメントスキルを持つ私も気をつけなきゃ。


なんて、その時はトニコの話を他人ごとみたいに聞いていたのですが……。






 後日。


「『あそこは冒険者のフリしてテロリストを派遣するギルドだ』なんて、今回の件でウチの評判ガタ落ちだよ?」


私のマネジメント責任ということで、オーナーからガッツリ叱責とボーナスカットをたまわりましたとさ。


私のせい?






『本日の申し送り:人の話はちゃんと聞きましょう   モノノ・アワレー』






 はぁい! どうかしましたか、観測者さん?


え? 受付嬢は一人しかいないのに、この申し送りは誰向けなんだ、って?

も〜観測者さんヤダァ、馬鹿ばっか〜!

私だっていつまでもこんなバニッシュでテカテカのカウンターにしがみついてるつもりはありませんよぉ! いつかは素敵な人を捕まえて寿退職〜って人生設計がなされているんです。

だからいつか私の代わりにここへ立つ後輩ちゃんのために、偉大なる先人の叡智を残しているんですよ!


あ? こんなミスしてるうちはそんな未来まだ先だ、って?

うるさいやい‼︎






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