流し目でズキューン♡ その3
「君が今回協力してくれる冒険者か」
「ユキヒロです。よろしくお願いします」
「うむ。期待している」
握手を交わすユキヒロさんと姫救出隊隊長。……なんか、手も足も出ないから助けてくれって言ってきた側のクセに、態度デカくありません? まぁウチも客商売、こんなことで一々腹を立てませんけども。
「それで、今回の作戦なのだが……」
「伺いましょう」
「どうすればいいと思う?」
「えぇ……」
そこ、ノープラン……? ちょっと信じられないグダグダっぷりですが、場合によってはこちらの方がやりやすいかもしれません。何せアh……力及ばず状況に対処できていない人が考えるような、勝ち目のない作戦に巻き込まれず済むんですから。
「えっと、じゃあ、ドラゴンの巣周辺の地形について教えてください」
「副隊長、地図を」
「はっ!」
ドラゴン自体の情報はクエスト発注の手紙に書いてあったので、他の情報を集めましょう。戦いは地の利ですから。テルモピュライですよテルモピュライ。
「この周辺は坂というより『登れる断崖』のような急勾配となっている。その中腹ほどにあるのがヤツの巣穴だ」
「なるほど……」
「攻めかけるにも一苦労、そして踏み込めば退却が容易ならざる蟻地獄と言えよう」
あまり好条件とは言えない足元。そのうえで繊細かつ大人数の軍隊を活かす作戦を考えなければなりません。
ユキヒロさんが出した答えは……。
「出てこいドラゴン野郎ー!」
「もっと太鼓を鳴らせ! 煙を上げろ! 声を張れーっ!」
「おおぉーっ!」
「『♪尾ー根に咲ーく
「『♪奉国の血より朱に染めるーはー 乙女が差ーすー祈りの
ところ変わって、ここは
すると、
「ヴヴルルルル……」
「ヤツが出てきたぞーっ!」
「もう一息だーっ!」
「ユキヒロよ、うまくいきそうだな」
「そのようですね」
返事をしつつ腰を上げるユキヒロさん。
そう。彼の作戦はズバリ、陽動です。まず何をするにしても、お姫さまを巻き込まないよう戦場を移す必要があります。私は『細かいスキルで巻き込まない繊細な立ち回りを〜』と想定してマネジメントしましたが、さすがは一流の冒険者さま。そんなメンドくさい神経の使い方するより、頭を使うようです。それに、こうすれば大騒ぎのために動員人数が増え、「ちゃんと現地軍活躍させましたよ」って言い訳が立つ。
まんまと引っかかったドラゴンが坂を下って(というか崖を飛び降りるというか)きたところで、ユキヒロさんは隊長へ振り返らず静かに告げます。
「では、あとは手筈どおりに」
「うむ! 救出隊! 迂回して巣穴に向かえ!」
「おおーっ!」
ガラ空きになった巣穴からお姫さまを助け出すのは現地軍の仕事。あくまで最高の手柄は相手に渡す政治的判断。本来ならドラゴンを倒してから向かってもいいんですが、登るのも時間かかるし時短です。お姫さまも早く助けてほしいだろうし、何よりスピード解決は国内外への優秀さアピールになります。
さて。こちらが動いているあいだドラゴンはぼっ立ち、なんてこたありません。飛び降りるのは一瞬、すでにチンドン騎士団の眼前に迫り、
「ギャオアアアアア!!!!」
高らかに咆哮を響かせます。その衝撃波だけで仰向けにすっ転ぶ者、今まで散々討伐失敗のコテンパンにされたトラウマで腰が抜ける者、さまざまな様子。
「ユッ、ユキヒロ殿!」
隊長もどうやら腰砕けなようで、ユキヒロさんへの
しかし、
「お任せください」
当然、ウチの冒険者さまが屈することなどありえません。咆哮も夏の夜の田んぼのカエル程度(結構うるさいですけどね)、衝撃なんか微風です。
「えーっと、……とりあえず覚えてるやつ片っ端からぶっ込んでおくか」
一瞬オーラーが見えたかと思えばもう、
「『麻痺』」
「ギャッ⁉︎」
「『氷結』」
「⁉︎」
「『脱力』」
「……!」
「『昏倒』」
「」
以下長いので省略。
「見ろ! あのドラゴンがぶっ倒れたぞ⁉︎」
「オッオオオオー!」
赤子の手を捻るように制圧完了。見事任務を果たしました。
そう、果たしました。トドメを刺すのも現地軍の役目、あくまで今回の仕事はお膳立てです。今までの鬱憤晴らしとドラゴンへ群がる兵士を横目にも見ず、
「あと何があったっけ? あれー? なんかあったよな? つうか、勝手に発動してるの結構あったよな。発動条件とか近いの併発するクセ直さないとな」
簡単すぎて浸る余韻もない、といった態度で脳トレみたいに膨大なスキルをおさらいするユキヒロさん。あとはお姫さま救出を見届けて終わり、というところ。
と、
「隊長ーっ‼︎」
噂をすれば陰、ちょうど巣穴の入り口から別動隊の一人が手を振りました。
「おーう! 姫は無事、救出できたのかー⁉︎」
失敗などする要素がない、これにて一件落着
と誰もが思ったその時、
「いえー! それが、姫が少し大変なことに!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます