流し目でズキューン♡ その2

 情報を整理しましょう。今回の案件は


・ドラゴン退治

・お姫さまを助け出す

・現地軍と協力して行う

・相手の体裁を保つ


というポイントがあります。ではこれを条件に置き換えてみましょう。

すると


・高い戦闘能力が必要

・人質を巻き込まない繊細な行動が必要

・どのような作戦、展開になっても対応可能な、柔軟性もしくは多様性のあるスキルが必要

・目立ちすぎないように作戦遂行可能なスキルが必要  また、できるかぎり少人数が好ましい


こうなります。正直難しいですね。複数人パーティーを組んで適材適所すれば可能でしょうし、ウチも基本、いくら冒険者さまが強かろうとしています。

が、今回は人数を削って組みたいところ。大人数で向かうと、よその国に見られやすくなりますからね。

ドラゴンを倒せる威力がありながら、派手ではなく巻き込む範囲も小さいスキル……。


可能なのか、って? ふふん、ナメないでください! できるに決まってるじゃないですか!

私を誰だと思ってるんです。あのチート渦巻く転生追放ギルドで受付嬢として認められている、天才美少女モノノ・アワレーちゃんですよ⁉︎

こんなの朝飯前です。なんなら最小人数『一名』で編成してご覧にいれましょう。


今回のマネジメントは、これだっ!






「というわけで、お願いしますね」

「いいよ」


私がカウンターへ呼び出したのは、転生者ユキヒロさん一人。彼なら確実に今回のクエストを成功へ導いてくれるでしょう。


え? 彼の何がそんなにおあつらえ向きなんだ、って?


それはですね、彼があまりにも多彩なスキルの持ち主だからです。






「……はっ、ここは」

「ここは女神に選ばれし者だけが来られる、どこの世界にも属さない空間よ。そして」


生前は赤点回避に学校生活のリソース全てをいていたユキヒロさん。彼はある日、英単語帳片手に道を歩いていたら、トラックとかいう鉄の塊(破城槌はじょうついの一種ですかね?)によって命を落としたそうです。

急に視界が回って地面が上、空が下になったと思ったら、次の瞬間には別の場所。一面真っ白の果てしない、デザイナーが精神病んでそうな世界。

そして目の前には、体に長い布巻き付けただけみたいな格好の


「私が女神タルー」


職業自称女神年齢不明住所不定。


「め、女神⁉︎ 俺はいったい……?」


まぁ細かいことは転生業界じゃよくあることなので省きますが、いわゆるお馴染み『手違いとお詫び』です。本来死ぬはずではなかったユキヒロさんですが、哀れ女神のミスで命を落としてしまったのです。

……他人に生き死にの予定立てられてるの、怖すぎません?


それはさておき、女神タルーは彼を別の世界へ転生させて、奪ってしまった人生を補填することにしたそうです。そしてお詫びとして天性のスキルに色を付けてくださるとも。

元のおうちには帰してくれないのね。


しかし今回の件、女神にとっても不測の事態だったようで(そりゃ計画的だったら手違いじゃなくてキ◯ガイです)。言ったはいいものの、じゃあ具体的にどんなスキルを与えたらいいんだ、ってことがパッと思い付かない。そこで彼女が至った結論こそ、



「そうだわ! とりあえず全部あったら困らないでしょう!」

「おぉ!」



まさかのワンパク全部盛り! 大通りで転生者さんがやってるラーメン屋か!

女神はとにかく、思いつくかぎりのスキルを羅列しはじめます。


「まずは身体強化のスキルからいきましょう! 筋力アップでしょ? 持久力アップでしょ? あ、なら肺活量も大事よね。病気にならないとかも、免疫力で考えたら身体活性の一種かしら?」

「そ、そんなにもらっていいんですか⁉︎」

「いいのいいの、減るもんじゃないんだし」

「さすが女神さまはスゲェや!」

「あと痛覚遮断とかもあると便利よね。それから……」


もうチートスキルの押し売りとかバーゲンセールとかを超えた何か。そのあまりのインパクトと豪勢さに、


「やっぱり、いざという時のために攻撃スキルも必要よね! 単純にスラッシュが飛ばせるとかそういうのから、通常攻撃に毒を付与するとかも!」

「うわー! ド◯クエとかで敵が持ってると厄介なやつー!」


大興奮のユキヒロさんでしたが、


「魔法も使えたら楽しいわよね? えーっと、やっぱり男の子は火が出るのが好きよね? 焚き火に便利なのから山火事起こせるのまで、より取り見取りにしておくわ! で、もちろんクールな氷雪系も男のロマン! 釣った魚を腐らせず持ち帰れるのからプチ氷河期まで……」

「は、はぁ……」


あまりにも数が多いので、


「デバフ撒き散らすとかもいいわね! 攻撃する前から有利に立ち回るのよ! そうね、まずは相手に毒をバラ撒いたりとか」

「なんか内容被ってません?」


だんだんと、


「日常で使える便利スキルとかもいいんじゃないかしら。鑑定眼力とかあったら、キノコの食べれる食べれないから、同じ包丁でもがより長持ちするかまで判断できるわ」

「もう覚えられないんですが……」


付いていけなく……。


「あとは、そうね。ちょっと待ってて。漫画とかラノベ読んで、目ぼしいもの見繕ってくるから」

「zzz……」






 とにかく! ユキヒロさんは一人でなんでもできるのです! 彼一人派遣すれば、今回の案件もオールオッケー!

え? それじゃ受付嬢のマネジメントスキルももないじゃないか、って? ズルじゃないか、チートじゃないか! って?


いいんですよ。ウチはチート冒険者さまが大量に所属するチートギルドなんですから。


だから今回もパッパと無双、簡単解決



……のはずでしたが、私の目の前の金髪サイドテール、なんと言いました?



『モノノちゃん大変』?



あり得もしない、マズそうな報告の予感。この天才的頭脳をもってすら理解も想像も及ばない私でしたが、トニコによると、どうやら顛末てんまつだったそうなのです……。

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