おのれメロス その1

 私の仕事は毎朝の手紙の確認から始まります。

はい。新たなクエスト発注が来ていないかの確認ですね。なんたってウチは世界一のギルド、依頼したい人はこの広い空の下、どこにでもいます。ま、屋内なんで空見えませんけど。

とにかく『困った! さぁギルドだ!』と駆け込めるご近所さんばかりではないし、長距離通信魔法なんて高度なもの使える人も少ないしで、多くのお客さまは手紙を送ってこられるわけです。

たとえ手紙が届き、ウチからの冒険者が到着するまで待つ羽目になるとしても。


だからこそ、喫緊きっきんの問題があれば素早く対応するのも私の仕事。


「むっ! これは!」



『転生追放ギルド様。私はスパンニャ国ガスティーナ区にありますエルフの村、ドレドの村長でございます。このたび大変困ったことがありまして、ぜひお助け願いたいのです。


というのも、この手紙をしたためておりますミッポ座(※9月)の11日、魔物の集団が襲来し村の娘たちを一人残らず連れ去ってしまったのです! 取り返そうにも村の若い衆は一度目の襲撃で多くが負傷し、どうすることもできません。


どうか、一刻も早く冒険者の方を派遣して、村の窮状を救ってはいただけませんでしょうか。


村長ゴンザレス』



「これは大変!」


これは大変です!(二度目)

『今度使いたいから、危険な洞窟に生えてる貴重なキノコが欲しいのよ〜』みたいなのと違って、こういうクエストは依頼人及びその周辺の、命や尊厳がかかっています。ということは、とにかく素早く現場へ急行できる人材を派遣しなければなりません。



そういった時に現在が手が空いている冒険者さまを把握しておき、持っている手札から最適なパーティーメンバーをマネジメントするのが私の最大の仕事なのです!



「まず『空間転移』のスキルを持っているタルコフさんは、ブリザードで下山できなくなった人の救助に向かっているから……。よし」


オーダーが決まったらカウンター内に吊るされている紐を引きます。すると『スキル:楽聖モーツァルト』をお持ちのシーカさんが作った、『念じた相手にだけ音が聞こえる』ベルが鳴ります。

瞬間、私の目の前には三人の冒険者様が。速い。私の見込んだとおりです。ちなみに現れたのは


『スキル:競歩』をお持ちのワタルさん

風の精霊のご加護を受けておられるライザスさん

いつも激怒していることでお馴染みメロスさん


はい。もうお分かりですね? そう、三人とも非常に足が速い冒険者様なのです。

彼らならエルフ娘たちが酷い目に遭わされる前に救出してくれるでしょう!

依頼の手紙が届く前にタイムオーバーとかは知らんよ。


「これからお三方さんかたには、スパンニャ国ガスティーナ区ドレド村へ向かい、魔族に拐われた村娘たちを救出するミッションにおもむいていただきます。自体は急を要しますの、で……?」


もういない。さすが速い。でも話はちゃんと聞いてほしい。


とまぁ、これが私の仕事における、細かい一連の流れなわけです。

はい、相変わらずギルドというより人材派遣ですね。


だって最近スローライフ? かなんかが流行ってて、バリバリ働いてガツガツ稼ごうって気はない方や、最初から「困ったら呼んでくれ」みたいな方、多いんですもの。あとは実力を見せびらかすのが嫌いで、後ろの方に居心地を感じてらっしゃる控えめな方とか。

はい、『赤字』を加速させる要因ですね。


そこで私が適宜てきぎ仕事を割り振って、世界平和を保っているというわけさ!

おかげで今回のようにタイム イズ 命なクエストが、手遅れになってから発掘されることもなくなりますし。


その結果、『スローライフしたいんだから、そんな定期的にクエスト回さないでよ』という不満の声も。

もちろんそれに対応するのも私の仕事です。



ちょっとは我慢してよ……。

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