第4話 出会ったのは謎の女の子

 裏山にたどり着いた晴斗はるとは、キョロキョロと周囲を見回しながら進んでいた。辺りはすっかり暗くなり、足元もよく見えない状態だったが、それでも足を止めることはなかった。

 晴斗の頭を占めていたのは、ただ一つだけ──『天気を操れる石』を見つけることだった。


(絶対見つけてやる……!)


 そう心に決めて、さらに奥へと進んでいく。だが、それらしき石は一向に見つからなかった。それどころか、道から外れてしまい完全に迷ってしまったようだ。


(やべぇ……ここどこだろう……?)


 不安になりつつも、とにかく前に進むしかなかった。しかし、進めば進むほどどんどん暗くなっていくような気がする。周囲は不気味なほどに静まり返り、人の気配は全く感じられなかった。まるで世界に自分一人だけしかいないような感覚に襲われる。


 さらに不運なことに、ポツリポツリと雨が降り出してきた。最初は小雨程度だったが、次第に強くなっていき今では本降りになっていた。

 晴斗は慌てて近くの木の下に避難したが、すでに全身びしょ濡れになってしまっていた。気温も下がってきたようで、濡れた服が肌に張り付いて気持ち悪い。


「くそっ……なんでこんな目に遭わないといけねぇんだよ……!」


 苛立ち混じりに吐き捨てるように呟くと、その場に座り込む。そして、膝を抱えるようにしてうずくまった。


「うぅ……寒いし暗いし最悪だ……」


 このままここで夜を過ごすことになってしまったらどうしようと思うと、余計に怖くなってくる。晴斗はギュッと目を閉じると、身体を縮こまらせた。そのままじっとしていると、不意に声をかけられた気がした。

 驚いて顔を上げると、目の前に一人の女の子が立っていた。彼女は心配そうにこちらを見ている。


「キミ、こんなところで何してるの?」


 突然話しかけられたことで、晴斗は動揺してしまう。まさか人がいるとは思っていなかったからだ。


「えっと……道に迷っちゃって……」


 しどろもどろになりながら答えると、彼女は納得したようにうなづいた。それからにっこりと微笑むと、手を差し伸べてくる。


「そっか、大変だったね。よかったら私の家に来ない? 雨宿りくらいはできると思うよ」


 彼女の言葉に、晴斗は少し戸惑った。彼女は自分と同い年くらいに見えるが、学校にはこんな子はいなかったはずだ。一体誰なんだろうと思っているうちに、彼女の方から名乗ってくれた。


「私はレインっていうの。レイン・ブリーズ。キミは?」

「え?」


 名前を聞いた晴斗は困惑する。というのも、その名前はまるで外国人の名前のようだったからだ。だが、彼女は日本語を話している。もしかしたらハーフなのかもしれないと思った晴斗は、思い切って聞いてみることにする。


「えっと……君は日本人じゃないの?」

「『ニホン』? それってキミの住んでいる街のこと?」


 キョトンとした顔で聞き返されて、ますますわからなくなってしまった。どうやら話が噛み合っていないらしいことに気づくと、晴斗は質問を変えることにした。まずはここがどこなのかを知る必要があると思ったのだ。


「……あのさ、ここは何ていう街なんだ?」


 その質問に、今度は彼女が不思議そうな顔をする番だった。不思議そうな表情のまま首を傾げている。


「ここは、『アスフィア』っていう街よ。知らないの?」

「……え?」


 今度は晴斗が驚く番だった。聞いたことがない地名だったからだ。そもそも日本ですらないのかと思い始めると、背筋が寒くなるのを感じた。自分はとんでもないところに迷い込んでしまったのではないかと不安になる。


「大丈夫……? えっと、名前だけでも教えてもらえるかな……?」


 彼女に言われてハッと我に返った晴斗は、慌てて自己紹介をした。


「あ、ごめん。俺は晴斗って言うんだ」

「ハルトくんかぁ、よろしくね! ……えっと、とりあえず私の家に行こっか。いろいろ聞きたいけど、このままここにいたら風邪ひいちゃうしね」


 そう言って、彼女は晴斗の手をつかむと歩き出した。晴斗は戸惑いながらも、大人しくついていくことにする。今はそうすることしかできなかったからだ。



 しばらく歩くと、小さな小屋のような建物が見えてきた。そこが彼女の家だということがわかると、少しだけホッとした気持ちになる。


(よかった、これでなんとかなるかも……)


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか家の中に入っていたようだ。中に入った途端、暖かい空気に包まれるのがわかった。ホッと息をつくと同時に緊張も解けていくようだった。晴斗は、そこで初めて自分がかなり冷え切っていたことに気付くと、ブルッと身震いした。

 そんな晴斗の様子を気遣ってか、レインはタオルを持ってきてくれた。


「はい、これで拭いて。服は……どうしよう? 乾くまで時間がかかるだろうし……」


 そう言われて、晴斗は自分の格好を見た。ずぶ濡れで、足元は泥だらけになっている姿を見て、思わず顔をしかめてしまう。それを見たレインは、申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんね、私がもっと早く気づければ良かったんだけど……」

「いや、いいよ別に……それより、服を貸してもらえないか? もう寒くて死にそうなんだけど……」


 それを聞いたレインはすぐにうなづくと、タンスの中からシャツとズボンを引っ張り出してくる。そして、それを晴斗に手渡した。


「私は隣の部屋にいるから、着替え終わったら呼んでね」


 それだけ言うと、そそくさと出ていってしまった。残された晴斗は、渡された服を持ったまま立ち尽くしていたが、すぐに我に返ると急いで着替えることにした。

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