第12話 十五夜の月


 ______1年前、大学最後の秋。



 残された二人は就職活動に精を出していた。

ただ、私の気持ちは暗い。


「また面接が上手くいかなかった。ちゃんと準備したんだけどな……」


かおるちゃんは面接を突破し、次が最終面接らしい。かっちゃんも居酒屋のリニューアルが成功し上手くいってるみたいだった。


「みんな頑張ってるのに、何で私だけダメなんだろう……」


(厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は採用を見送らせて頂くこととなりました)


 メールを開いてもどれも同じ内容。もう、人と話すのが怖い。企業研究に履歴書作成、それ以外にどれだけ準備をしても、面接を繰り返す度にその全てを否定されている様に感じる。


 学生時代取り組んだ事は?

 自分を物に例えると何ですか?

 あなたが得意なことは何ですか?

 逆に不得意なことは何かありますか?

 それをどうやって仕事に活かせますか?

 大学で学んだ事で仕事に活かせる事は?

 それは弊社以外でもできるよね?

 本当に弊社が第一志望ですか?

 最後に質問はありますか?


「えっと、あっ、えーっと、それは……」


 すぐに尽きる関心、正気のない眼差し、形式ばった質問、無愛想な表情。みるみる内に私に興味が失くなっていくのが分かる。私だって伝えたい思いはある。もっと話したいこともたくさんある。でもそんな、そんな見限る様な目で私を見ないでよ……

 余りにも強い緊張感にあてられて、私の何もかもが空回りをする。


「かおるちゃんはいいな。何であんなにも堂々と話せるんだろう。私なんて……もう──」


 私の内側で渦巻く感情が溢れ出し足元に広がると、虚ろになった真っ暗な心の奥底へと落ちて行く。もう、大学にも行きたくないや。

 人とすれ違うのも怯えてしまう。

周りがひそひそと話す度に自分が貶されている様に感じる。目を合わせると心の内側まで覗かれて、ああ、こんなものなのか。と、あの時の視線が蘇ってくる。

 私は次第に外に出るのが怖くなり、カウンセリングに行く回数だけが増えていった。




 ──先日、二次試験の合格通知が手元に届き気持ちが少しだけ緩んでしまったが私は気持ちを引き締め直した。そして今日で全てを出し切るんだ。


「よし、次が最後の面接だ。ここで気を抜いちゃだめ。頑張れ私! かおるなら出来る!」


 私は自分を励ました。何回も練習をしたし、面接のイメージだって何度も繰り返した。インターンだって、企業研究だってした。時には、卒業した先輩に話を聞きに行くことさえもあった。全てが上手くいった訳でもないし選考に落ちた企業だってあった、周りの内定に焦る日々だってあった。未来が見えず不安で眠れない夜だってあった。その度に私は自分を奮い立たせて……何とかここまで。

 そう。誰が何て言ったって今までで一番頑張ってるんだから。私なら大丈夫。


 最終面接の当日、かおるは待機室で自分の名前が呼ばれるその時を待っていた。失敗したり、時には気持ちが削れてしまうこともあった。自分を見失う時もあった。でも今は一番大きく、鮮明に輝く自分の姿がはっきりと見えている。ここを乗り越えれば今までの努力も報われる。


「お待たせいたしました。それではこちらにお入りください。」


 来た。ついに来た。私は強張る身体を落ち着かせ、案内された部屋の前に立つ。


 ノックはゆっくりと三回。コン、コン、コン。


「どうぞ、お入りください。」


 よし。行こう。


「失礼します!」


 部屋の中には社長の他に二人が目の前に座っている。どうぞ、と言われるともう一度、失礼します。と伝え、席に着く。

 緊張する。でも、それ以上に自分が必要とされている様なそんな眼差しを感じる。

思い込むだけでいい。ここまで頑張ってきたんだ! 自信を持て! 私!


「そんなに緊張されなくて大丈夫ですよ。では、改めて自己紹介をお願いいたします。」


「はい! 私の名前は です!」

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