第11話 お揃い
______1年前、大学最後の夏。
あれからあかりちゃんは元気がない。夏休み中もなかなか会えず電話で話すだけだったけど、どうやらカウンセリングに通っているらしい。今は夏休みが終わり新学期が始まっている。それなのに講義を休むことも多くなってきたし、最近はよく眠れていないみたいだし……少し心配だ。
「もしもし、あかりちゃん? 久しぶりにお買い物でもいかない?」
私はあかりちゃんを誘い出し、励ますことにした。
______一方、机に置いたままのスマホから突然着信音が鳴り響き驚いた。かおるちゃんからだ。
「もしもし。どうしたの?」
買い物に行こうだなんて珍しい。かおるちゃんに会うのも何日ぶりだろう。
「分かった。週末ね」
週末か。かおるちゃんに会えるのは嬉しい。でも、楽しみのはずなのに外に出ようとすると身体が重くなる。行きたいのに行きたくないこの気持ちは私だけなのだろうか…
──結局、当日を迎えても身体は軽くなってくれなかった。約束の時間。部屋のインターホンが鳴り扉を開けると優しい笑顔のかおるちゃんが立っていた。
「あかりちゃん迎えにきたよ!」
玄関から暖かい眼差しが暗い部屋に差し込んだ。それはまるで夜を照らす優しい光みたいだった。こんな私が一緒にいて楽しいのかな。そんな私の思いをよそに手を差しべ、楽しそうに話し出すあかり。
「じゃーん! 黒髪にしちゃいました! 就活も近いし、ようやくね! どう? 似合ってる?」
似合ってる。たぶん。暗闇に慣れた私の目には眩し過ぎてあまり見えないや……
──私はあかりちゃんを励まそうととても意気込んでいた。それも、秘策を用意しているほどに。最近、あかりちゃんが落ち込んでるから心配。今日は元気を出してもらいたい、そんな一心だった。
「みてみて! これあかりちゃんに似合いそう!」
「ええ、観たかった映画終わってる!?」
「わー! 可愛い! この服サイズあるかなあ」
「スタバの新作でたんだって! これ飲みたかったの! 一緒に飲もっ」
──あーいっぱい遊んだねえ。スタバで新作を飲みながら、私はくうーっと身体を伸ばす。向かいでは少しだけ柔らかい表情になったあかりちゃんが座っている。良かった、少しだけでも元気を出してくれたかな。
「あかりちゃん調子どう?」
今日一日連れ回されたおかげで、少しだけ気持ちが楽になってきたとあかりちゃんははにかんだ。それは、今日初めて溢れた笑顔だった。
「よかった。最近、元気ないから心配だったんだよ。それでね、これあかりちゃんにプレゼント!」
あかりちゃんがトイレに行っている間に買ってきたの! と優しい笑顔を私に向けた。そこには、お揃いの眼鏡が入っていた。私は思いもしなかったプレゼントに目を丸くした。
「え!? お揃いの眼鏡! いいの!? かおるちゃんなんでこんなに……」
かおるちゃんはえへえへと大袈裟に照れた。
よかった。ようやく笑ってくれた。ずっと沈んでいたから心配してたんだよ。
「前に集まって勉強してた時にさ、私の眼鏡をすごい褒めてくれて、欲しいなあって呟いてたから。」
もちろん度は入ってないから安心してね、と、くすくす笑いながら話してくれた。
「かおるちゃんありがとう。嬉しい。少し元気が出てきたよ。」
あかりちゃんが元気になってくれたみたいで良かったよ。私は嬉しい。と、ストローを咥えながら彼女は呟く。
結局その日は最後まで私を暖かく包み込んでくれた。かおるちゃんはいつも周りを優しく照らしてくれる。
ああ、私もこんなふうになりたい。どうやったらかおるちゃんになれるかな。それから私は少しだけ元気を取り戻し、就活に向けて少しずつ、少しずつ準備をしていった。もちろん、お揃いの眼鏡をかけて。これで私も……かおるちゃんみたいになれるかな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます