第10話 散っていく花びら
______一年前、大学最後の春。
今年も河川敷の桜が満開を迎えた。ただ、そこに三人の姿はない。
「俺、大学辞めることにしたんだ。」
今日はかおるちゃんの家でいつもの様集まり、そろぞれ試験に向けた対策を進めていたところだった。ノートに字を書く音だけが響く中でかっちゃんが唐突に話を切り出し、私とかおるちゃんの手は止まった。驚きの余りすぐに言葉が出てこない。それも今年は就活の年だから、みんなで頑張ろうねと励まし合ったばかりだったのに……
「何で!? せっかくここまで来たのに、みんなで頑張ってきたじゃん……!」
私は許せなかった。だって、集まって試験の対策をしたり、朝まで勉強した時もあった。あと一年だからって、あと少しだからって。それを急に逃げ出すみたいにさ。それじゃあまるで、これまでの努力がなかったみたいじゃん。そんな簡単に辞めるだなんて。
「まてまて落ち着けって!」
そんな私の態度を見てかっちゃんは慌てて続きを喋り始める。
「バイト先の店長がさ、ここで働かないかって言うんだよ! 俺、ここのバイト長いし、店長も俺のこと気に入ってくれたみたいでさ。店が今年からリニューアルするから、それで、人手が足りなくて。店長がこのタイミングでどうかなって。」
投げ出した訳じゃねえよ。ほら、俺もいつか自分の店持ちたかったしさ。修行するなら早い方がいいかなって。と、大袈裟な手振りで私をなだめた。そんな二人の攻防をかおるちゃんが仲裁に入る。
「もう、二人とも落ち着いて。かっちゃんはずっとそう言ってたし、応援しよ? ほら、あかりちゃんってば」
かおるちゃんにそう言われ、私は少し落ち着きを取り戻す。でも、やっぱり納得できないよ……
「そこで、店長が言うんだよ。かつきくんならこの店を継がせてもいいかもなんてな、って!それでさ──」
聞いてもないのにかっちゃんが熱く話し続けている。かおるちゃんはそれを優しく聞き流しながら自分の作業を進めているけど……
どうして……何でよ……かっちゃんの熱は私には届かない。みんなで頑張るって言ったのに、一人だけ放り出して先に行くなんてずるいよ……
次の日からは二人だった。かっちゃんはこれからリニューアルに向けて忙しくなるらしい。もう、しばらく集まれないみたいだった。
「あかりちゃんそんなに拗ねないで。ね? 一緒に頑張ろうよ」
未だかっちゃんの思いを肯定しきれない私をかおるちゃんが優しく励ましてくれる。
「次の試験も対策しなくちゃだし、インターンも始まるしさ!」
かおるちゃんはしっかりしてる。私はまだ納得してないっていうのに。もう少し早く相談してくれてもよかったよね? って言うか拗ねてないし。今年は一番大事なんだ、試験に就活にたくさん頑張らないとって言うのにこれじゃあ……ずっと三人で頑張るつもりだった。私一人じゃたまらなく不安を感じ、途中で投げ出していたはず。それだけ、一緒に頑張れる友達は大事な存在だった。それなのに。
私は出鼻をくじかれ、自分の中でたかぶっていた気持ちが薄れていくのを感じた。
______陽射しの暖かさは増し、ようやく芽生えた草木が未来に向けて手を伸ばしていく頃。
「ごめんね。一息つけたらまたみんなで集まろうね」
かおるちゃんはしばらくの間、インターンの準備があるから試験前に集まれないのだと言う。何だ、結局、私は一人なんだ。かおるちゃんは行動力があっていいなぁ。
あれから私は勉強に身が入らず、徒に時間だけが過ぎていった。かおるちゃんは優しく励ましてくれる。そのおかげもあって、なんとか机に食い付き一つずつノートをまとめていった。
でも、何だろう。ぽっかりと穴が空いた様な、張り詰めた糸が切れたような、燃えていた火が消えてしまった様なそんな感覚が、私の中に残り続けて消えてくれなかった。
その後、大学の成績が送られてきてもその気持ちが晴れることはなかった。結果は落第。
合格したかおるちゃんは、大丈夫! これで留年が決まる訳じゃないしさ! 次も一緒に頑張ろ? と、必死に慰めてくれていた。
ただ、その声は私に届かず、何かが崩れていくのを感じた。あれ、私って何のために頑張ってたんだっけ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます