第6話 たこ焼きをトリートメント!?



 ______三年前、大学二年生の夏。



 初めての一人暮らしもあり、私の部屋は荒れに荒れていた。その景色に絶望する暇もなく部屋を片付ける。服をクローゼットに入れて掃除機をかけてゴミをまとめて……ようやく部屋が綺麗になった時、部屋のインターホンが鳴った。


「あかりちゃんお邪魔しまーす!」


 入ってきたのはかおるちゃんとかっちゃんの二人。今日は私のアパートで小テストに向けた勉強会が開催それる日だ。


「お邪魔しまーす。お、思ってたより綺麗!」


 かっちゃんが大きな袋を手に持ちながら率直な感想を言う。

 おっと? それは宣戦布告と捉えていいんだな? 開戦のゴングが鳴る。その言葉は私の清い乙女心を傷つけた。


「思ってたよりってどう言うことですか? もっと汚い部屋だと思ってたんですか??」


 私が首を体ごと傾げながら睨みつける。かおるちゃんはいつものところに座ると、二人は本当に仲良しだね。と、受け流しながら優しく見守っている。


「はいはい、悪かったって」


 今日は私の勝ちである。まぁ、部屋はさっき綺麗にしたばかりだけど。クローゼットを開けられなければ問題はない。さ、とりあえず買ってきたもの冷蔵庫に入れちゃおう。そう。今日は普通の勉強会ではない。なんと勉強した後に待っているのはたこ焼きパーティーなのだ!!


 勝負にも勝ったし、私は上機嫌でかっちゃんから袋を預かり買ってきてくれた物を冷蔵庫にしまう。これは粉だから外に置いて、タコは冷蔵庫、ネギも冷蔵庫、揚げ玉は……冷蔵庫でいっか。えーっとそれから……チョコはまあいいか。キムチは許せる。グ、グミ……?? 普通に食べるのかな? 後は……たくあん。これは食べてみないと分からない。それから……ブリーチ剤とヘアトリートメントは冷蔵庫に入れなくて……ん?


「ちょっと買い物に行ってきた金髪出てこい!!」


 向こうで二人が同時に笑い出す。まずは、かおるちゃんが笑いながら近づいてきた。


「ごめんねあかりちゃん。ちょっと中に入れるもの考えてたら楽しくなっちゃって」


かおるちゃんは大丈夫だよ! と私は満面の笑みで出迎えた。問題は次に来る……


「いやいやキムチは絶対美味しいって!」


……と言いながらやってきたこいつだ。


「そこじゃない! グミとたくあんってたこ焼きに入れるものじゃ……って違う! そこでもない!! これとこれ! 人の家で髪染めようとしてるのか、これを食べようとしてるのかどっちか選べ!!」


 私は笑いを堪えながらかっちゃんに詰め寄った。たくあんまでは我慢したが金髪セットは耐えきれずに吹き出してしまった。もう無理。こんなの大喜利でももっと現実的なやつ持ってくるのに。かっちゃんなら本当に食べる方を選びかねないのを想像してしまったのだ。


「へへ、ごめんごめんそれは流石に俺も食べられないや」


 三人でいるといつもこうだ。笑いすぎてお腹がもたない。まったく、何て楽しいんだろう。

 ちなみにあの金髪セットは、自宅で使うつもりだったみたいだ。やれやれ。

 冷蔵庫に食材? を入れ終えると三人はようやく落ち着いた。これでやっと勉強会が開ける。それぞれがプリントを机の上に並べていると……ん、あれ? 珍しくかおるちゃんが眼鏡をかけている。


「かおるちゃん眼鏡なんて珍しいね!可愛い!」


普段はコンタクトなんだろう。講義でも勉強会でも見たことがない。とても珍しい光景だ。


「ふふっ今日は気合い入れてきたの。眼鏡をかけると、うん、やるぞ! って気持ちになるんだ」


 彼女は最後に、本当はコンタクト切らしちゃっただけなんだけど。と、小さく呟いたが、二人には聞こえなかったようだ。


「いーなー私も目が悪ければなあー」


 私はとても羨ましがっている。それはもう物凄く。眼鏡をかけたらかおるちゃんみたいに頭が良くなるかもという低俗な理由なのは置いておいてとても憧れる。

 かおるちゃんは褒められたのが嬉しかったのか、口元のにやけを片手で隠しながらプリントをめくっていた。流石のかっちゃんでも女子トークには入りずらいのか一歩下がって見守っていた。



 ______そしてまた笑顔に満ちた一日が終わる。あれから、勉強会の後にたこ焼きパーティーを始め、一番美味しかったのはキムチ、想像より美味しかったのはたくあん、これからも想像さえしたくないのがグミだった。

 今日も楽しかったな。私は二人を玄関で見送り部屋に戻ると、さっきまでの余韻に浸りながら辺りを見回す。そこには三人の熱が消えずに漂い、皆んなが帰った後も楽しかった形跡が確かに残っていた。


「あ……」


 そしてあの金髪セットも。


「あいつ、忘れて帰ったな!?」


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