第5話 満開の桜の下で
______三年前、大学二年生の春。
去年は全てが初めての一年間だった。
初めての講義に初めての試験、初めての一人暮らしに、新しい友達。かおるちゃんとかっちゃんさえいれば、私は何でもできる気がする。そう思える程に仲が深まっていた。
外を歩く私の目の前の川は穏やかに流れ、目線を上げるとそれ以上の青が広がっている。そんな今日この頃、あれからかなりの仲良しになった私たちは、河川敷に咲いている桜の木の下でお花見をする事にした。
「うわー綺麗! ここの桜大きいね! 集まってる人も少ないし、ここ良い場所かも!」
かおるちゃんは桜を見上げながらはしゃいでいる。
その反応も当然だ。なんて言ったって私が見つけたからね。【お花見 穴場 近く】で検索したのは秘密だけど。
「あかりちゃんって素敵な場所見つけるの上手だよね! いいなー、私はそう言うの苦手だから羨ましい」
かおるちゃんは落ちてくる花びらを掬いながらそう呟く。眉をひそめながら呟くその姿に私は思わず見惚れてしまう。
「う、ううん! そんな事ないよ! かおるちゃんだって調べたらすぐ見つかるって」
私は見惚れた事を隠すように大袈裟な手振りで言葉を返した。かおるちゃんは桜がとても似合う。なんて言うか、優しい雰囲気が一緒なんだ。私が勝手に感じてるだけだけど。
そんな事をしていると、誰かが土手を駆け上がってきた。ようやく食料係が到着した様だ。
「お待たせ! 昨日、バイト先の居酒屋で花見する事言ったらさ! これ持っていけって!」
かっちゃんは両手に持った袋を得意げにかざす。その袋からは何やらタレの甘い匂いが漂ってきた。
「焼き鳥!たくさん貰ってきた!!」
「「え、お花見で焼き鳥!?」」
お洒落な雰囲気の欠片もないそれはまさに居酒屋を梯子した後に外で飲み直す時のそれだ。
もっとこう、サンドウィッチとかドーナツとか……もういっそお団子でもいい! 焼き鳥はお洒落じゃない!!
女子二人からの非難が飛び交い得意げだったかっちゃんは少し小さくなってしまった。けれど、焼き鳥を一口食べるとその非難は止まり二人は何も言わなくなった。
「美味しい。よかったらもう一本欲しいな」
かおるちゃんが上目遣いでそう呟いた。かっちゃんは純粋な笑顔で喜んでいるけど……ずるい。さっきのを無かった事にしようとしてるのを私は気がついているぞ! そんな可愛い顔をしたって!! ……でも、確かに焼き鳥は美味しかった。私は焼き鳥と一緒にその言葉を飲み込んだ。やはりいつの時代も鳥は平和を運ぶらしい。
白い鳥ではなく、甘いタレのかかった鳥だけど。
満開の桜が三人を包む。出会ってから一年しか経っていないが、舞っている花びらの数以上の時間を共に過ごしてきた。
私は笑う二人を見て、過去の自分に言い聞かせてあげたいと思った。初めの頃に退屈していた自分がもったいない。もっと早く、みんなに出会えていればよかったな。辛いことがあっても、この桜を思い出して頑張ろう。
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