3.叔父と姪っ子
「もう!驚かさないでよ!!
大体、なんでこの時間に起きてるの?
いつもだったら寝てる時間じゃん!!」
私は元々つり気味の目を更につり上げて、声の主である
雨夜 龍之祐。
年齢は確かママより二個下の35歳。
鴉色のサラサラヘアと切れ長の目をした、格好だけは清潔感のある男である。
シワ一つないワイシャツとスラックスは、サイズもぴったり。
ネクタイはしていないけど、そこがちょっとカジュアルな雰囲気で◎。
ご近所さんからは「龍之祐くんは、黙っていればそれなりにかっこいいのよねぇ」と、誉められてるのか貶されてるのかわからない事を言われてたりする。
一見すると綺麗好きそうで、こんな掃除の行き届かないボロ屋に住んでるとは思えない男だが、彼こそが館の主『お化け館の怪人』その人であった。
怪人は些か納得いかない表情で
「いや、僕だってたまには昼に起きてることもあるから!?失敬な!」
とドヤ顔で腕を組むが、姪っ子の目は欺けないぞ。
私にはわかる。この男が何もなく昼間に起きてるわけがないのだ。
「なるほど、なるほど……。
それで、今日、昼に起きてる理由は?」
「隣の鹿島さんが、庭の雑草抜き手伝ったらタケノコくれるっていうから」
それは普通に人が良いのか、タケノコにつられたのかどっちだ……?
ともかく、うちの叔父は労働と引き換えに、健康的な起床時間とタケノコをゲットしたということらしい。
意外と微笑ましい起床理由で、姪っ子としては『えらいじゃないか』と謎の上から目線になってしまった。
「鹿島のおばちゃん、最近腰痛いって言ってたもんね。
ノスケ、えらいじゃん」
因みに『ノスケ』は龍之祐のことだ。
更に言うと、龍之祐は私を『ウカ』と呼ぶ。
小さい頃からお互いこの呼び名で呼んでいるが、叔父としてはちょっと他の呼び名を期待しているらしい。
物心ついた時だったか、会う度にやたらと「ウカ!ほら叔父だよ!おっさんとかじじいって呼んで!?」って、謎のお願いをしてきていた記憶がある。
ママが言うには「優歌がママのお腹にいる時からそんなこと言ってたよ」とのこと。
どうも姪っ子に雑に扱われることに夢を見ているらしく、私の反抗期も楽しみにしているらしい。
そうも変な期待をされると、逆にやりにくくなるのが人間だと思うんだけどな。
「いやぁ、やっぱりご近所付き合いは大切だからね。
それで?ウカは僕の部屋に忍び込んで、何をするご予定だったわけ?」
しりもちをついていた私を抱え起こして、パタパタとホコリを手で払ってくれつつ、龍之祐は私に目線を合わせたまま首をかしげた。
「うーん、優しい私としては、まだ寝てるだろう叔父をやさしーく起こそうかと……」
私は精一杯のかわいい上目遣いで龍之祐を見上げる。
すると、彼はふむと口元に手をやりつつ、真剣な表情を浮かべて言ったのだった。
「ウカが将来のパートナーさんとかに同じことする前に教えて差し上げるが、寝てる相手に突然ボディプレスかけるのは優しさのかけらもないと思うよ」
流石だ。
毎回ボディプレスをかけられてる男は、本日もどう起こされる予定だったかすぐにわかったらしい。
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