2.お化け館の怪人

「ねぇ、お化け館って、怪人が住んでるんでしょ……?」

今日は授業が少なく、いつもより早い下校となった昼下がり。

小学校からの帰宅途中に、友だちの七海ななみが怯えたようにそんな事を言い出した。

「は?」

思わず私、晴長 優歌はるなが ゆうかは目を丸くしてしまった。


隣で泣きそうな顔をする友だち、青野 七海は、同じ市立大葉小学校六年二組の同級生。

ふわふわした髪の毛に、真っ白な肌をしたフランス人形のような可愛らしい女の子で、今年から同じクラスになったんだ。

因みに私はと言えば、ママから『お日様に愛されてるわね』って褒められるそばかす顔。それにパパに似た明るい栗色の髪は、毛量が多いのを何とかママにヘアゴムでおさえてもらってる状態だ。今日のポニーテールなんて馬のしっぽどころか、毛玉がそのまま頭についてるみたい。

あと、小さい頃からお兄ちゃんと一緒に剣道をやってるものだから、そこらのクラスメイトよりちょっぴり力が強いんだよね。

別にケンカをするわけでもないけれど、なんでか周りからは『ボス』って言うあだ名がつけられてて、私としては少し納得いかない。

こんな私と大人しめの七海とは、一見正反対な二人に見えるでしょう?

いや、これがもう、ほんとに正反対!

けれど七海は優しくてすごく良い子で……まだ友だちになってそんなに経ってないけれど、すぐに仲良くなったんだ。


「クラスの子達から聞いたんだけど、あそこには怪人がいて、たまに暗い館の中で不気味な奇声をあげてるとか……。

あと子どもを追いかけてくるって聞いて……!

優歌、たまにあそこ行ってるんだよね……?大丈夫なの?」

どうやら七海は純粋に私の事を心配してくれているらしい。優しい。

とはいえ『お化け館の怪人』については、町内の人なら割と知ってると思っていたけれど、七海はものすごい怖がりだから、詳しく知ろうとしなかったのかな?

正直な所『あそこ』はそんな大層なものじゃないんだ。

「大丈夫だって!

元々ボロいってだけで普通の家だし、怪人も単に何かよくわかんない人ってだけで、割と普通の人だよ」

私は笑ってそう答えた。

すると七海はギョッとしたような顔で

「ほ、ほんとに怪人っているの!?」

と言い、小柄な身を更に縮めてしまったのだった。



お化け館のドアの鍵は、大概かかっていない。

地域によっては鍵をあまりかけない地域もあるって聞いたけれど、この辺りの地域では珍しい方だと思うんだよね。

最低限の手入れしかしてない重い木製の扉は、開け閉めの度にギィと軋んだ音を響かせた。

こんな音がしてたら、泥棒だってドアを開けた瞬間、びっくりして逃げてしまうかもしれない。


電気がついていないエントランスは、昼間だというのに薄暗い。庭の大きな木々のせいで、窓からあまり日の光が入ってこないのだろう。お日様の力が届かない館内は、4月だというのに肌寒く感じるくらいだった。

私は赤いカーディガンを着た二の腕をさすりつつ、いつものようにささくれの目立つ階段を上って、二階の奥を目指した。


そこにいるはずの怪人に会うために。


二階の奥にはあるのは、古い木の扉だ。

私はその扉を小さくそっと開け、中の様子を伺う。

室内はカーテンがしまっているのか、真っ暗で何も見えないが、なんとなくシルエットで何がどこにあるかは大体わかりそうだ。


私はにんまり笑みを浮かべた。

そして、扉の隙間から室内に入り込もうと足を踏み入れた。


「ウカ?何してるのさ?」


「ぎゃあっ!!?」


予想外にも真後ろから聞こえた声に、私は驚きのあまり恐竜のような悲鳴をあげて、盛大なしりもちをつくはめになったのだった。

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