だいたいなんだよ

島丘

だいたいなんだよ


「だいたいなんだよ」


 午前二時頃、佳子から電話がかかってきた。


 こんな非常識な時間に電話をしてくるような子ではない。

 不思議に思いながら出たが、内容は至って実のない話ばかりだ。


 どこか支離滅裂でよくわからない話を繰り返して、変なところで一人でけらけら笑い出す。

 気味が悪くて一言断ってから切ってしまえば、すぐにまたかかってきた。


「だいたいなんだよ、だからよくないんだよ」


 もしかして酔っ払って誰かと間違っているんだろうか。いつもと声が違って聞こえるのも、そのせいかもしれない。


「ねぇ、酔ってるの?」

「だいたいなんだよ。そんなんだから、だからさ、わたしだってさぁ」


 佳子はその内私の言葉に返事もしないで、ひたすらよくわからないことを言い続けた。

 いつまでも構っていられない。途中で無理矢理に切って、携帯の電源を落とした。


 翌朝携帯の電源をつけると、佳子からの着信履歴が三十件残っていた。

 あんまりに気味が悪かったけれど、このまま放置していても落ち着かない。


 私は恐る恐る電話をかけてみた。二コールの後、すぐに佳子が出た。

 こんな朝早くにどうしたのかと、まともなことを言ってくる。昨日のことを説明しても、覚えていないの一点張りだ。

 発信履歴を見てほしいと伝えると、大層驚いていた。


 寝惚けていたのかもしれない。結局話はそれで終わりになる。


「ごめん、そろそろ切るね」


 どこか慌てた様子で佳子に促される。私もそろそろ会社に行く準備しなければならない。またね、と電話を切った。


 切る直前、電話口の向こうから「かえして」と声が聞こえた。誰かいるんだろうか。

 そういえば、佳子の声は昨日と同じで少ししゃがれたままだった。




 出社すると、先輩が資料を片手にやって来た。


「悪いんだけど、これじゃあちょっと進められないから、代替案出してくれる?」


 私は頷いた。


 それから何かに気が付きそうになったけれど、結局何が引っかかったのかわからなくて、そのまま仕事に戻った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だいたいなんだよ 島丘 @AmAiKarAi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ