第8話 『ナイショ!』

「……そんなこと言って期待させといて、先輩しなさそうだからー。それはそれで残念だからしちゃった。それとも……我慢してたら先輩からしてくれた?」


 俺を見つめてそう言う紗織は、キャミソールに短パン姿のままなわけで。俺のベッドの中で俺に抱きついて俺にキスしてきたのは紗織なわけで。


 これ……完全に誘われてるよなと思うわけで。


 なのに、紗織は俺と付き合う気はない、それって俺のこと好きなわけではないということで。

 胸にチクリと何かが刺さった感覚になる。


「……俺、女の子って、好きな男としかしたくないものだと思ってた」


 つい口から漏れた言葉に


「……女の子みんなかはわかんないけど、少なくとも私はそうだよ?」


「え?」

 

 紗織が何気なく答えたその言葉に、思わず聞き返した。

 

 それって、俺のこと好きってことじゃ?


「あ……」


 紗織はしまったというような表情をして口元を押さえ、急に赤面し始めた。


「……でもさっき、付き合うのはいやとか言わなかったっけ」


「言った」


「だよな? それって、俺のこと好きじゃないって事だよな?」


「……うー。そろそろ本当は好きなのバレちゃうから、嫌だなー?」


 赤面した紗織の目が、泳ぎ始めて。


「つまり本当は俺のこと好きってこと?」


「ナイショ!」


 紗織は真っ赤になった顔を布団に潜って隠した。


「えーなんで?」


「…‥だって。告って振られるのショックじゃん」


 紗織は布団から顔だけ出して、小さな声でそう言った。


 ……それ、もう言っちゃってるようなものでは? 思わず頬が緩んできたのだけど。


「紗織ほど可愛くて……振られるとかある?」


 率直な疑問として聞いてみた。すると。


「……それしかないよ? それも割と毎回酷い振られ方する」


 そう言って話し始めた内容によると……


 紗織を振ったのはみんな元彼だったらしい。


 一人目は、はじめてだったから身体を求められてもなかなか勇気が出なくて、断っていたら面倒臭いと言って振られた。


 二人目は、身体の関係を断ってばかりじゃまた振られると思って勇気を出したけど、『胸が小さくてつまんない』と言われ、別の可愛くて胸の大きな子と浮気されて振られた。


 そして三人目は……


 向こうから告ってきて、もう付き合うとか懲り懲りだと最初は断ってたけど、優しくされているうちにいいなと思って付き合い始めた。


 付き合いはじめるとますます優しくなって紳士的で、だんだん本気で好きになった。


 なのに。


 ある日、いい感じになってキスより先までした後、ころっと元彼の態度が変わって冷たくなり、振られたらしい。


 後で他の人から聞いた話では、元彼の中ではゲーム感覚で、可愛い子を口説き落として一線を超えればゲームクリア、そういうろくでもない男だったらしい。

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