第5話 『キスしよ?』

「ホントのキス、したいなー」


 紗織にそんな事を言われて。


 紗織の真意が分からない。


「お、お前なあ」


 言葉に困ってそう言うと、


「“お前” じゃなくてー。“紗織” って呼んで欲しいのになー?」


 また小悪魔のような少し拗ねたような顔して言ってくるから。また論点違うんだけどと戸惑う俺。すると


「ねー長谷川先輩、キスしよ?」


 俺の顔を見つめながら近づいて来て。


「え、え?」


 戸惑っていると。


「なーんてねー。ウソですよー先輩」


 イタズラな顔して言いつつ、俺の上半身に触れて来て。


「う、うそって、……お、お前なあ!!」


 やっぱり言葉に詰まってそれ以上何も出てこない俺に


「先輩は、なかなか紗織って呼んでくれないなー? そんな悪い口は、やっぱり塞いじゃおうかなー?」


 冗談ぽく言いながら俺の唇に紗織の唇を近づけて来て


 風呂上がりのいい匂いが俺の鼻腔をくすぐったりもして。


 なに、待って、俺の心臓が勝手にドキドキしてくるんだけど。


「ねー、いやなら突き放して? そうしないなら、このままキスしちゃうよ?」


 吐息がかかりそうなほどの至近距離でそんな事を言い始めて。


「え、ちょ、紗織、ま、待……」


 言いかけた俺の唇に、紗織はしっかりと自分の唇を押し付けた。


「時間切れでーす。早く突き放さないからキスしちゃった。ねー、もう一回する? しよ?」


「え、ちょ、ま……」


 言いかける俺に、紗織はまたその柔らかな唇を押し付けてきて。


「へへ、“待て” が出来ない子でごめんね? こんな子が妹になって残念? おにーいちゃん」

 

 悪びれることなく言う紗織に言葉もなくて。


「紗織が……こんな子だとは思わなかった」


 思わず自分の唇に触れながらそう言うと


「でも……誰にでもこんな事するわけじゃないからね?」


 意味深な表情で言うから


「え、それ、どーゆー意味……」


 聞いてみると


「さあ? しばらく紗織のことだけ考えて」


 紗織はイタズラな笑顔を向けて、はぐらかすのだった。

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