第4話 『間接キス』

 紗織が次に入ればと言うから、紗織が出るのを待つ事にした。


 脱衣所で。


 ……なわけがない。さすがにそれはアウトだろ。


 父がテレビを見ているリビングで待つ事にしたのだが。


 あいつの言葉の真意が分からない。“一緒に入る?” とか……


 なんなの、俺、誘われてるの? からかわれてるのかな。


 そうこうしてたら紗織が風呂から出てきた。


「あー気持ちよかったあ。お兄ちゃん、次どうぞー。あ、お義父さん、そのテレビ面白いよねえ」


 紗織はすっかり父と打ち解けたように話していて。

 バイト中はしっかり父にも敬語なのに。適応能力高過ぎじゃないか。あ、これ二回目か?


 


 はー。考えるのやめよ。せっかく久しぶりの風呂なんだし、ゆっくり浸かろ。


 そう思いながら湯船に浸かる。


 今までは父と二人暮らしだったし、風呂を洗うのも面倒でシャワーで済ませていた。


 そういえば、風呂場の中が綺麗になっている。紗織が風呂を溜めるついでに掃除してくれたのか。意外と女子力高いな、とか思いつつ……


 風呂場の中は湯気が立ち込めていて、シャンプーのいいにおいがしていて。


 この風呂……紗織が入った後なのか。


 少しそんな事を意識してしまったりして。


 ……ダメだダメだ、そんなこと考えるのはやめよう。


 自分の理性を整えたりして。


 風呂に浸かってリラックスしたのか余計疲れたのか、よくわからない風呂を終えて、自分の部屋へと帰ることにした。


 ……今はもう、俺と紗織の部屋だけど。


 

「紗織ー? 入るぞー?」


 一応声をかけて部屋に入る。


「あ、お兄ちゃん、おかえりー」


 俺を笑顔で出迎えた紗織は、キャミソールにショートパンツ姿でアイス食べてて。


「え、お前、服……さっきは長袖じゃなかった??」


 驚いて聞くのだけど。


「えー? さすがにお義父さんの前でこの格好はやばいじゃん?」


 紗織は悪びれることなく言うので、


「いや、俺の前ではやばいとは思わないの」


そう言ってみれば


「だってさー。お風呂あがりに長袖長ズボンとか、無理じゃないー? ここ、紗織の部屋でもあるわけじゃん? 自分の部屋の中でくらいさ?」


そんな事を言ってきて。


 それもそうか……と納得する自分もいたりして。


 ……でも、目のやり場に……困らなくもないのだけど。


 そう思ったりもしていると


「ねーお兄ちゃん、このアイス美味しい。半分あげるー!」


 紗織が食べかけの棒アイスを俺に差し出してきた。


「えっ」


 戸惑っていると


「ねー早く食べてー。溶けちゃう」


 紗織がそんな事を言ってくるから、俺は受け取って紗織の食べかけの棒アイスの続きを食べた。


 ……これって、間接キスなんじゃ……


「あーお兄ちゃん、今、間接キスだーとか、思った?」


 またイタズラな顔を浮かべてそんな事を言ってきたから


「な、ち、違う。お前、からかうなよ」


 咄嗟に否定したのだが


「……私は思ったよ? 長谷川先輩と間接キスだーって」


 紗織は俺を見つめてそんな事を言った後、


「ねぇ、間接キスじゃなくてー。ホントのキス、したいなー」


 小悪魔みたいな表情かおをして、俺にそんな事を言ってくるのだった。

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