第12話 領内教育改革 その2
そういうわけで、役場に戻って適当に算術が得意だという何人かの役人に集まってもらった。場所はギルドの会議室。どうしてかというと、この図形の計算公式をギルドに記録してほしいから。そして集まれる場所があまりないから。
「ティナ、あなた教えられるの?」
おばあさまはちょっと半信半疑。知識はあるけれど、実際教えるのはまた違うテクニックが必要だから心配なのだろう。
「公式を覚えれば簡単だよ。それに、みんな大人だし」
選抜された役場の人と、土地の管理をしている法務関係の人と、記録を取っている商人のギルトから数人、町の有志のおじさんやおばさんなど、合計12人ほどの寺子屋だ。
「町長、え?こんな小さな子に習うんですか?」
「そうなんです、身長が伸びなくて困っています」
その一言に、ギルドの人がぷっと笑った。
「まぁ良いじゃないですか。領都のギルドマスターが猫可愛がりしている噂のお嬢さんでしょう?」
「え?」
「知ってます? ラインハルトさんは滅多に人を認めないんですよ? それを変わり者の、気の良いお嬢さんだって、猫可愛がりしているんだから呆れるよ。俺、ミリーっていうんだ、よろしくね。算術教えてもらったってラインハルトさんに自慢できるよ」
「良かった、簡単だから覚えて行ってね」
私は大喜びだった。彼のおかげでものすごく緊張していた雰囲気が、それで和んだ。
「じゃぁ皆さんお忙しいでしょうから、ものすごく簡単に、わかりやすく、しかしスピーディに説明しますね。まず。真四角の土地です。それから、長方形の土地です。この二つの土地の面積を計算してください」
黒板に、二つの図形を描き、数値を書き込む。
「正方形とか長方形の計算式はわかっているんですよね?」
「それは心配ない。問題なのは、ちょっと変わった形の場合の計算式なんだ」
「ん、それもあとでやりますね。まずは、測量して、ちゃんと直角であることを確認した図形の場合を説明しますね。これをやらなかったら話にならない」
「そうなんだよな。あの先生も直角直角ってうるさい」
誰かがぼやきながらそう言った。
見回して、全員ができていることを確認してから、黒板の二つの図形にそれぞれ対角線の線を入れて三角形にしてから問う。
「じゃぁ、この下側の三角形の面積はいくらになる?」
「そりゃぁ、二つにしたから半分…半分…?」
「ほら、できた。底辺×高さ割る2が三角形の公式」
「えっ?」
「あ、ちょっと待って」
みんな目を輝かせて、実際にやってみる。
直角三角形の基礎の公式ができたら、今度は底辺×高さ÷2の法則を教える。高さは必ず直角で測ることを教えて。
「これでどんな三角形が来ても平気?」
「任せろ、大丈夫」
役人が頷いた。じゃぁ、と応用で、多面体の図形を出す。
「あれ?これは…」
補助線を引いて、四角形と三角形になることを教え、またその応用で平行四辺形の公式を教える。もちろん台形の公式も。
「うわぁぁぁぁ、すごい」
何度か計算するメンバーを横目に、多面体の図形をいくつか書いて、補助線をどこに引くか考えさせる。
これ、やったよなぁ、小学校の算数だったわ。
「ティナ、貴方一体いつの間に?」
「算術の本はお屋敷の図書室にありましたよ? 学校にも同じ本がありましたから。それより町長、お願いがあるんですが」
「はい?」
「このメンバーで一回か二回、実際に土地を計測して計算するという体験をさせてください。できれば変な形の方が勉強になりますので、広い場所に変な形を書いて、それを計算するんです。ギルドの技術練習場とか、学校の運動場とかでかまいません」
「んんん?」
「え?私たちに?」
「そう。そして、皆さんは後輩たちにこの計算式を教えてください。独り占めはいけません」
「はい?」
「みんなが計算できれば、もめごとは少なくなります。わからなかったら、ギルドに来てください。今ギルドに登録するための記録を取っていますよね?それで確認できます」
ミリーさんが手を振った。俺の仕事だとアピールしてくれたからだ。任せたよ、ミリーさん。
「確かに」
「ティナ、貴方って子は…」
「必要な情報は公開しなきゃ」
おばあさまにそういった。
「じゃぁ、この先生どうしましょうかね? こっちの仕事を断っても良いですかね?」
「みんなが習熟出来たら学校の方に集中してもらいましょう」
おばあさまの一言に、皆が納得した。確かに。
コマちゃんコマちゃん、誰だったっけ? やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、って何とかって格言。
「それは、やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず、ですね。有名な海軍人の人材育成訓ですね」
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