第11話 領内教育改革 その1


 コマちゃんコマちゃん。

「お呼びですか、マスター」

 ちょっと教えてほしいんだけど、これ、どういうこと?


 私の目の前には、教室があって、机が並んでいて、ごくごく普通の学校のように思えるのだが、勉強している生徒たちの年齢はそれこそ5歳から上は10歳くらいの子供たちだ。

 そんなクラスが3クラスある。

 10歳以上の子供たちは、いくつかの教室に分かれてそれぞれ先生と思しき人物から教えてもらっているけれど、授業というのはちょっと辛い。

 教師として教壇に立っている人物もいれば、町の商人みたいなオジサンが算術を教えていたりもする。

 いうなれば、雑多な寺子屋が三つ。理解度がまちまちな子供たちばかりの集団だ。三クラスあるんだからレベリングすればよいのに。

 領都にある学校と違うから?  領内の教育はお父様も指示していたよね?


「補足説明すると、ここには4クラスありますが、1クラスだけ選抜された人間が集められて領都水準の教育をされていますが、他の3クラスはレベルもまちまちですし、使っている教材も違いますね。教師のレベルもまちまちのようです」

 コマちゃん、どうして? 学校運営は代表教師とそのほかの教師や地域の町長とかと相談しながら運営するわけでしょ? ここにいる代表教師は教師募集で来た熱意ある教師で、災害や飢饉でうまくいかなくなった教育を建て直すために来てるんでしょ?


「そうですね。その点は代表教師は苦労されています。町の皆さんも、というより、ほとんどの領内では、平民には教育は不要という考えが根強いので親が教師に対して不満を持つのもわからないではないですが」

 お父様の教育概念が不満だということ?

「順次浸透していっているのでそれは問題ないです。ですが、教師の熱意を理解されていないというか。町の人たちには、まず従来の教育と、領都の教育の差を理解していただくことから始めています。そのために自分は優秀なのだ、将来お嬢様の婿になるかもしれないと吹聴しているようですが、町の人たちにはその話も半信半疑のようですね」

 あらそうなの。じゃぁ、うちの領内の教育目標とか理念とかはさっぱり理解してないのは街の人たちの方なのね。

「そういうことになりますね。必要だと理解していますが、差し迫ってそれが何の役に立つのだ、というところでしょうか」


 そうか。王国内の教育って、基本は貴族だけで、領民は私立学校に通うことが多いし、それも領都の話だしね。

 各領主は優秀な子供たちを集めて教育して中央に送り込もうと画策している。それ、自分の利権に関わるからじゃないの、と思わなくもない。でも優秀な人材を発掘して人を育てたいと思うのは一緒だ。だからわが領は初等教育は義務教育としている。


 おじいさまとおばあさまに連れられて、今日は領地の南側、隣の領地と接している南門を中心に形成された街、アラウに来ている。

 エレン隊長も一緒だ。

 領内3番目に大きな町で、災害や飢饉でつい最近まで経済的にも立ち直るのは難しいほど壊滅的被害に遭ったりもした街だ。

 まぁ、ゆっくり立ち直っているわけだが、その分、教育が遅れていて、被害に遭った学校を建て直すことになって、工事が始まった。そんな街だ。


 そして、授業内容はともかく、授業方法はまぁ「お察ししろ」レベル。教師が空回りしているんだろうね、きっと。


「どうしてこの問題が分からないんですかっ」

 って、言いながら授業を進めるんだもの。

 やっているのは算数、割り算の3桁の数字を2桁で割る初歩の問題だが、この世界ではこの割り算は中等教育の部類になる。ちょっと応用も入っているけれど、もっとかみ砕かないと理解できないだろうなと思う問題だった。


「もっともっとかみ砕かないと、生徒は理解できないと思うんだがね、町長」

 おじい様はそうつぶやいた。

 うんうん、こういう先生に教わるとトラウマになるんだよね。

「でも、先生はよくやってくれていますし、実は学校経営のことで悩んでいらっしゃいますし、そのほかにも先生は難しい土地の計算もできるのでお忙しいですし」

 もごもごと町長はそういった。

「だからといってこの授業は良くない。学校経営に集中できるような体制を取らねばならんな」

「しかし、先代様、土地の計算方法を知っているのは、先生だけなんです」

「ねぇねぇ、土地の計算方法って、四角とか三角形とかの計算ということですか?」

「はいそうです。再開発中で入り組んだ土地分割では必ずもめるので。計算しやすい土地の形なら良いのですが、そればかりではないので争いのもとです。計算方法を教えてくれと言って、何度か教わったのですが、さっぱり分からなくて結局先生にお願いしています」

「そうだな」

 おじいさまと町長がぼやく。

「計算できるのなら教えられるよ。簡単だし」

「えっ、お嬢様が? 相手は商人もいますし、ギルドの事務員とかですよ?大丈夫ですか?」

「土地を計算する条件と計算を間違えなければ大丈夫ですよ。その知識があるのが一人じゃぁ集中するから、何人か複数の人に。町長、集めてくれって言ったら、集められますか?」

 その申し出に、町長はウンウンと頷いた。

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