第10話 研究の爪跡


 毎日出歩いているわけじゃないけど、毎日図書室にこもっているわけでもない。でも引きこもりたい。

 そして今日は隊長と一緒にお外仕事だ。

 同行するのはエレン隊長と魔法研究所のディーン所長と研究所の職員が2名、ギルドから、ギルドマスターのティム・ラインハルトとギルドの職員が2名。それからここの管理をしている警備隊から非番の2名、総勢10名のパーティで何をやるかというと、魔の森の入り口にあるキャンプ場でのキャンプである。真昼間だからキャンプじゃないけど。

「過剰防衛だよね?」

「いやいや、数時間のお茶会だから。そしてまだ誰にも見られたくないから」

 そういったのはディーン所長だった。

「それで?魔法研究所がいくつかの魔道具の実験をしたいと言ってきたから来ただけだが」

「ああ、発明品のいくつかを実験してほしい。それを、最終的にはウチのギルドで扱って国内流通させたいんだって話だ。だからこれからここで結界を張る。何があったかは絶対にしゃべるなってことだ」

「待って、その話は聞いていない」

 その話を私は止めた。

「ああ、ウチはそれで研究費を稼いでいるんだ。ギルドに権利管理を任せれば、彼らが適切に管理してくれる。売り上げは毎月2割をギルドに、2割を研究所の運営費に、1割を領主に、残りは開発に関わった研究者たちで等分に分割する」

「そうなんだ。ああ、でも許可が下りないものもあると思うよ。そこは領主判断を仰がないと」

「誰だ、このガキ。面白そうな奴だな」

「俺んところの研究員。まぁ、まずは試してくれよ」

 研究員たちが「製品」を参加者に配って説明を始める。

 研究所やエレン隊長の協力で研究所内では安全が保障されたもので、製品化に踏み切ったものだ。私が知っているものと、そうでないものもあるけど。

 今回は、例のアメリア女史が開発した「携帯型着火剤」が含まれている。結局、うまくいかなくて紙に固着することにしたのだ。

「これいい」

「欲しい」

 全員楽しそうで何より。でもそれ、許可できないじゃん。

 同じ方式で、テントに結界を張った製品もある。

「これ、誰でも通用できるの?」

「汎用型は誰でも使えます。テント自身に結界が張ってあるので、魔物に対しては有効です。ただ、Bランク級になると意味がないですが」

「匂い消し、か」

「はい」

 どうみても二人用テントだった。そこへ、ギルドの職員が入り、警備隊の二人が入り、ギルドマスターが中に入って、ディーン所長が入る。

「なんだ、ここは」

 中には広い空間が広がっている。ギルドの職員とギルドマスターが出たり入ったりして広さを確認している。二人用テントだが、中の広さは6人から8人が宿泊できる広さだ。

「収容できる荷物を計算して、6人用テントです。荷物がなければ8人が泊まれます。魔物に対してはCランク級までの防御を備えてあります。だから火と水と雪に対しての耐性はありますが、気温保持のシステムはないです」

「種類は、この6人用テントと2人用のテントの2種類、どちらも外見は二人用テントのままです」

「すごいな」

「結界魔法の応用です。向こうのテントには、コンロのほかにも新しい製品を準備していますよ?」

 その言葉に、彼らはぞろぞろともう一つのテントに足を運んだ。

 こちらのテントには、日常生活道具が用意されている。

 魔力で発光するライトとか、通信機とか。


「で、お嬢さん、何が許可できないと言ったんだ?」

 研究所の面々が、ディーン所長を含めて許可できない製品があると言った私に詰め寄った。

「ティム、アンタはわかるかい?」

 所長はギルドマスターのラインハルトさんにそう尋ねた。ファーストネーム呼びって、仲良いの?

「やっぱりルネは気がついていない?」

 片眉を上げてそういった。いや、ルネって誰?

 数々の製品の中で、許可できないと言ったのはあの携帯型着火剤だ。

「市販はしない。領主の許可を得て、領兵だけの流通なら限定的に研究所で製作するというのが良いかと思うんだけど。そもそも、大量生産はできないから」

「そうだな」

「いや、二人だけで話を進めないでくださいよ、僕もわかりません」

 手を振ったのはギルドの職員のドニさん。研究所が開発した製品の、知的財産部分の申請担当者だ。

「ドニは、火の魔法を使えなかったよな」

「はい、ですからこの着火剤なんて……着火剤?」

「そう、普通は魔法を使ったら誰の魔法かの痕跡が残る。犯罪捜査官はその魔法の痕跡をたどることもある。なのに、この着火剤を使えば、火の魔法を使えないものでも使うことができる。他の魔法と反発するから発火する、という自然鉄則を使ったわけで、そうして起きた発火に関しては魔法の痕跡は残らない」

 あーーーー、と一同が納得した。犯罪に悪用される可能性があるのだということに。

「アダムが隠すのも良くわかるな」

「お前には会わせるなって命令されていた」

「どうして?」

「そりゃ、魔の森に出入りし放題になるからだろう? 基本、クリスは魔の森に入っちゃだめだ」

「まだちっちゃいからね,そんな危ないことはしない」

「そのちっちゃいは、年齢的に?それとも身長的に?」

「もちろん身長的に。戦うときに不利だもん。それに、体力がない。エレン隊長だってまだ早いって言ってるし」

「はい?」

 あれ?変なことを言った?


「ああ、カイル様が王都の学校に通うようになって、クリスタ師匠が王都に行っちまっただろう? だから代わりに俺が教えている。大旦那様はいずれラインハルトさんにも剣術指南を頼むんじゃないかな?」

「…マジでまだ小さいのに?」

「師匠は、護衛騎士になれるように腕をあげろとバシバシ鍛えていたが」

「アダムは自分の子供に何を期待しているんだか」

「そりゃ、公爵令嬢として一番王家に近い存在で切り札的に護衛ができる護衛騎士並みの腕を持った女の子でしょうに」

 ぽつりとつぶやく。

「いやぁ、剣は苦手なんだけどね、魔法の方が得意」

 そう、中二病だから。

 頭を抱えない、エレン隊長、ディーン所長までひどくない?


「いやそうじゃなくて、所長、ルネって誰? 私ずっとディーンがファーストネームだと思っていたのに」

 これには全員が大爆笑した。どうしてよ?

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