第8話 領地土木改革 その5
昼食を食べながら雑談していると、例の模型、ジオラマ? が持ち込まれてきた。
「うわぁ凄い」
道は茶色、川は水色、街は黒、山や草原は緑に着色され、危険地帯は赤いマークで着色されている。
分割して製作されたらしく、両手を広げたほどの大きさだが、領地はほぼカバーできていた。
「へぇ、領地はこんなふうになっているんだ」
みんなが感動して所長の趣味をほめちぎる。
「俺の自慢の模型なんだ」
「で、何に使うの?」
「いやいや、こうやって俯瞰するの大事よ。説明するにも有効だし。所長のストレス解消の趣味でもある」
作りかけの模型をじっとながめる。
「いや、今大奥様が領地の農地の視察をされているからその手助けになるかと…」
「なんだ、ここ」
領主館の図書館で見た、川が氾濫する街の名前と地形が立体的に目の前にある。そこに気が付いたのは土木課のメンバーだ。
「実際とは違うぞ?」
「おう、そこはさぁ、俺も苦労しているんだ。何度も川が氾濫して川の形が変わるだろう?」
「そうそう、ここは俺たちも苦労してる」
土木課の面々も同意する。
「だからね、川の流れを整えれば氾濫は起きないんじゃないの? って私は思うの」
基本ですね。
「どうやって?」
「水はその流れに従うわけでしょ? くねくねしている場所は氾濫しやすくて、真っすぐにすると、水かさが増して危ない」
「それはわかる。だから治水工事でできるだけ緩やかになるように川の形を変えたし、川幅も広くした。でも…」
「だから、川の水を迂回させて別の川に流すとか、一時的な、緊急時に水をためる調整池を作ったり、川の深さを調節したりするよね」
「うん、私が言いたいのはそういうことじゃないんだよ、そういうことはみんな考えついているわけだし。いやね、堤防を作ろうという話なのよ」
「ていぼう、って何ですか?」
「川を掘ったら深くなるよね?じゃぁその土はどこに行くの?」
「川のそばで山盛りにして、積み上げて…土手にして」
「あっ、あの土嚢の応用か」
「そう、要はそれなんだけど、人工的に積み上げて形を作ったのが堤防。土や砂が堆積してできたのが自然堤防」
「ああ、そうか」
「それでね、土木課のメンバーが前にカチカチの土の研究をしてたでしょ?」
「いや、あれは水分が入るとドロドロになるよ」
「いや、お嬢、土木課の人たちが研究って、何?」
研究者と土木建築関係者の間で話題が広がってゆく。ウンウン良いことだ。
「カチカチって、何?」
「偶然なんだけど、山から掘り出した土やいろいろが邪魔になったからごみと一緒に燃やしたんだ。そのあと、大雨が降ってきたからあわてて水で消火したんだけど、その焼け跡からカチカチに固まった土が出てきたんだ。水と灰と土を混ぜたらカチカチになるというところまではわかったんだけど、それからが分からない。その正体不明の「混ぜ土」の研究も進めている」
土木課のメンバーの一言だった。
「それを研究所で研究してほしいの。混合比率も」
「いや、ただ燃やしただけでしょ?」
「だから燃やした土というか、焼いた土を混ぜたんだけど、ダメだった」
「いや、アンタ、山から掘り出した土って言ったじゃない。その山から掘り出した土の成分が重要なんだろう?」
研究者の一言で謎が解ける。
「あーーーーーーーー」
こちらは研究者同士で自己解決したようだ。多分、コンクリートの話だよね? おばさんにはそんな知識はない。土に石灰を混ぜると「たたき」になるくらい固まるってくらいだ。でもそれだけだとその下の水はけがよくないと、どろどろになるんだよね。鉱物がなけりゃ、コンクリにはならない。
だったっけ? 教えてコマちゃーん
「本当に前世は普通の専業主婦でしたか? あなたは」
ごめん、自信もって野次馬おばさんだったわ。雑草対策にコンクリで固めたらって、調べ尽くしたことがある。DIYで解決しようとしたんだよね。
「あなたが正解を口にしなくても、皆さん優秀ですよ?」
そうみたいね、任せちゃいましょ。
それから1か月としないうちに、コンクリートの配分がきちんと解明された。本当に優秀ちゃん。
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