第6話 領地土木改革 その3
そんなわけで、おばあさまにはその畑を耕す能力をよそで見せてはいけないと重々約束させられた。当たり前だけど。
いやいや、そうじゃなくって。
せっかくだから皆さんにも手伝ってもらって、実験にかかっている。
「なんですか、これは」
少人数で土嚢に土を詰めて、一方で土嚢を敷き詰める区画の地面の草取りをして、すこし掘り返して水平を作って、土嚢をそこに敷き詰めて、平らになるように叩いてならす。それから、土嚢が見えなくなるように、土をかける。
「そうすると、土がかなり必要か」
メモを取りながら出来上がった土嚢の土台の土の高さを測る。
「お嬢様? これが実験ですか?」
「そうよ。魔法を使わなくったってできる道路の作り方。これなら自力で補修もできるでしょ?」
「ティナ、説明して」
おばあさまは興味津々だ。いや、おばあさまだけじゃなくて、参加者全員だ。
「地域によって土の質が違うし、雨が降った後のドロドロ具合も違うでしょ? だったら、水はけのよい状態の所に、道を作ればみんなの移動は楽になる」
「道を作ろうとしてるの?」
「そう、安上がりで誰もが作れて補修も簡単にできることが第一。街道は長いでしょ? あのね、街道を整備すると移動は楽になると思うのよ。その実験」
おばあさまにそう言う。
「なるほど、土嚢を敷き詰めるから平らに整備しやすいし、土が流れて行かない。踏み固まれば強度も増すし、土嚢分だけ地面が上がるので雨が降った時に水は下に流れる」
さっすが、ホワイトさん話が早い。
「砂利や砂を使って地面を平らにして早く水を落とす方法もあるけど、それだとちょっと大掛かりになるから、地面の状態が本当によくない区画だけにするとか。とにかく、領民たちの力で何とかできる方法にしなきゃ」
踏み固めながらそういった。
「それでも、これだと相当な人足が必要よね?」
「それはお父様と相談しなきゃ、なんだけど街道を整備するための費用だって限りがあるわけでしょ? 仕事がない人たちに仕事として振り分けることができるし、もっと良いこと考えたんだけどね」
「なぁに?」
「悪いことをした人は、施設に閉じ込められているでしょ? 働いていないよね? その人たち、働いてもらおうよ」
おばあさま、フリーズしない。
「あなた、どうしてそう思ったの?」
「外国の法律ではね、悪いことをした人たちに反省を促すために労働を課すの。懲役という労働刑が科せられるの。ウチの領は、犯罪者は逃げ出さないように収容所に集めるんだけど、日中は何にもしてないわけ。でも二食分の食事はつくから、その分は税金がかかる。自由を奪われるということも罰だと思うけれど、頭の中で考えていることって、他の人にはわからないよね?」
そうなのだ。この国には懲役という概念がないから、自由を奪われることが刑罰だ。最低限の衣食住の心配はいらないのだが、一方、行政側は施設の運営管理や囚人にかかる費用は税金だ。
「ねぇ、何で税金でそんな犯罪者を養わなきゃいけないの?」
前世からの素朴な疑問だ。軽微な犯罪を犯した者は刑罰も軽くて良いし、更生を促すために支援をしたって良い。税金を使ったって良いと思うだけの理由はある。
だが長期の収容者、特に更生が望めない者なんかはどしどし重労働を課したって良いと思うんだよね。刑罰が重いんだからそれ相応の労働で良いと思う。もちろん、いろいろ手配や配慮は必要だけれども。刑が軽い人と重い人で労働内容が一緒とか、いろいろ考えるべき要素はあるけれど、働かざる者食うべからずというか、そういう概念、この国にはない。だから更生ってことも考えないのだ。
留置所方式の収容所で、拘束している日々がずっと続いているだけで、面会や差し入れは自由だ。一日、ぼーっとしている。
「クリス?」
「刑罰の重さとか言っているんじゃないの。ただ収容施設に閉じ込めて税金で彼らを生かしておくだけの利点て、なに?」
「クーリースー」
「だから、働かない人間に温情を与える必要はないってことなの。それは犯罪者でも一緒。健康な犯罪者なら働けって思ったのよ。孤児院の子供たちだって、自分のことは自分でやってるのよ。そりゃぁ、必要な手助けは年齢に応じて必要だと思うのよ。おばあさまは、子どもは、勉強するのが仕事だっていうでしょ?勉強するべき時は一生懸命勉強しなさいって。じゃぁ収容所にいる犯罪者は、罰として閉じ込められている間何をしてるの? 一日何にもしてないじゃん」
「それは、反省させるために閉じ込めているわけだから…」
「だから、その反省度合いを街道づくりに役立ててもらえないかなと。お父様と相談しなきゃ、だけどね」
ホワイトさん、くすくす笑わない。
「ねぇ、わたしおかしなこと言った?」
「いや、目の付け所が斜め上すぎておもしろい」
うんうんと同意する。
この国の概念に、懲役刑というものはない。領地では領地での刑法が存在し、それによって領主が刑罰を決めている。もちろん、領内の治安を守る警備隊の存在は有効だし、犯罪は取り締まられている。きちんと領内法で裁判が行われ、地域裁判と呼ばれる、簡易裁判で人を罰する。
初犯は、まず簡易裁判で有罪か無罪かを判断され、軽微な犯罪の場合はその場で判決を言い渡され、それ以外は初犯でも領都で行われる裁判所での判断を仰ぐことになる。
おじいさま曰く、この領地の刑法は、他の領地に比べて厳しいそうだ。
「クリスは、思った以上に領主の素質があるかもね」
そうつぶやいたのはおばあ様だった。
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