第5話 領地土木改革 その2


 領地には、というよりも、国内には四季がある。もちろん、季節の変わり目にはちょっとした長雨があったり、夏には夕立というか、集中豪雨とかがあったりもする。

 そうなると、どうなのか。


 まだアスファルトという、便利なもののない時代、馬車が主要な交通手段だ。蒸気で機械を動かす発想はあるけれど、それより魔力で何とかしてしまおうとする率が高い。

 魔法陣はあるけれど、貴族ですら高価である。だから馬車が主要な交通路。なのだが、雨が降ればぬかるんでぐちゃぐちゃ、ということが多々ある。

 目の前の広場は、雨上がりなので領民総出で草抜きをしている。草を抜いて、平らにして、踏み固める。半年に一度の恒例行事だ。こうやって道路を補修するのだ。けれど、人が通ったり、市が立ったり、馬車が通ったりするとまたぼこぼこになったりする。

「石畳とかしたいんですけどねぇ、材料になる石は遠くから持ってくるか、買うか。買うには高いし」

「やれないことはないけど、ちょっとなぁ」

 と、私はつぶやく。隣にはディーン所長がいる。

「は?やれる?」

「石畳じゃないけどね、ぬかるんで困るというのは改善できますよ。できればそれを領内に広げたいです」

「はい?」

「領内の主要な町を結ぶ街道整備するんです。まずは実験ですね」

「実験かぁ」

「無理ですねぇ」

「そうでもないかもな」

「はい?」



 だからって魔法研究所の隣があいているからって差し出すなーっ。実験場の一角だから良いよって、正気の沙汰か?


「で、何をなさりたいのですか?」

 隣には、ホワイトさん。隣ではおばあさまが指揮を執って、農業実験をしている。

「耕すなら一緒に耕してしまいますが」

「耕す?」

「収穫が終わったので、新しく作物を植え付けるのでみんなで耕すのですよ」

「土をふかふかにしないとダメなんですよ」

「いや私がしたいのはカチカチなのよ」


 だから実験のために目の前の土をどどどどどどど、と耕す。

 一直線に。

「ちょ、ちょ、ちょ」

「きゃぁぁぁぁぁ、なに? すてきぃ」

「ちょっと誰よ?」


「あ、ダメだった?」

「いえ、黄色い旗で囲まれた一角を耕してください。範囲が広いですが大丈夫ですか?」

「大丈夫」

 ホワイトさんの指示で、農場の一角をどどどどど、と耕す。


「ホワイトっ、どういうことなの?」

 おばあさまの金切り声があがった。

「ひっ」

「ティナ、貴方何をやったの?」

「いや、ホワイトさんが耕してほしいっていうから」

「ティナ、あなた、そんな魔法が使えたの?」

 そりゃ、訓練はしましたけどね、ホワイトさんを手伝っていると、土魔法を自在に使わないと手伝えないのよ。

「私は力ではホワイトさんに負けますからね」

「ええ、最初はへなちょこでしたが、徐々に鍛えて今はこんなに耕せるようになったんですよ」


 ねぇ、コマちゃん、おばあさまが頭を抱えているんだけど。

「ここの畑の広さがどれくらいか、ご自覚ありますか?」

 広さねぇ、良くわからない。

「わかりやすく言うと、大人4人一年間食べられるだけのコメを収穫できる広さです」

 あーつまり、1アールってやつね。4人分だから4アール。

 というと、この畑一辺が400メートルってとこか。黄色い旗で囲まれているのはその半分くらいの大きさだもんね。

「前世、本当に専業主婦だったんですか?」

 田んぼでどれくらい米がとれるかなんて、基礎知識じゃないの? 年間60キロ食べるとか、一俵とか。


「あれ?大奥様、お嬢様が庭いじりするときにはって、言ってませんでしたっけ」

「ホワイトさん、これ、庭いじりの範疇ではないと思う。うん、その言い訳は苦しいと思うよ」

 ディーン所長、冷静に突っ込まない。


「私もそう思います。楽々この広さを耕すのは驚きです」

 コマちゃん。私はもっとすごい野望があるのにぃ。

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