第4話 領地土木改革 その1
そういうわけで、ホワイトさんを中心とした農業研究部なるものができた。肥料の研究は進められていたから、そこにホワイトさんを突っ込んで、またまた私が知恵を入れて魔法研究所のメンバーを何人か突っ込んだ。
どうしてなのか、って皆変な顔をする。
だって、植物が必要な栄養素を分析するのに、魔法って便利じゃないの? 土の成分の解析なんて、面倒なことは魔法を使って時短しなきゃ。
え?どうしてココで深くうなずくの? コマちゃーん!
「分かりやすく言えば、非常にタテ社会になっておりますので、柔軟に対応できないことがたくさん転がっております」
そういうことか。橋渡しする人がいないのか。
お父様もおばあさまも、ホワイトさんや魔法研究所の人と一緒に農業研究部の話に夢中になっている。まぁ報告連絡相談だから仕方ないんだけどね。
そう言いながらここ最近は、私は魔法研究所にいる。
図書館と魔法研究所の行き来が多い。ほとんどは図書館で引きこもりをしているけれど。
魔法研究所は、領主館の裏手にある建物で、何かを研究していて、ものすごく広い実験農場みたいなものも、ここにある。
「お嬢様、今日は早く帰らないと、ずぶぬれになりますよ」
「んんん? 晴れてるよ?」
けれど、外を見ればもくもくと雲が立っている。
「うわぁ、くも、凄い」
「あの場所だけ、必ず雲がわくんですよね、今の季節。そして絶対に昼間天気が良いと雷が鳴る」
「だって、温かいと、川の上の湿った空気と、空にある冷たい空気が喧嘩して雨が降るでしょ?つまり、雲がわいて雨が降る」
「ええ、そうですね。外国の文献にありました。あれってすごいですよね」
「雷は、その両方の空気が激しく喧嘩して出てきたエネルギーでしょ?」
「はい?」
目が点になっている研究者の皆さん。ちょっとぉ、皆さん魔法に頼りすぎ。私物理は詳しくないんだってば。
でも何かの刺激になったことは確かだ。ホクホク顔で研究者が何かを書き留めたり、この実験をしなきゃーっとか叫んでいる。
「全く、お嬢さんの一言一言に触発されるんだから」
そう言って私に紅茶を差し出したのは、副所長のアメリア女史。所長のディーンが口説き倒してとかなんとかで連れてきた元凄腕の冒険者だったという。
「仕方ないだろう?」
横でジオラマを作っているのはディーン所長。
「どうせお前も煮詰まっているんだろう?」
「まぁね。昔の冒険者仲間から依頼があってね。長年の課題」
「へぇ、依頼を受けることもあるんだ」
「その依頼と特許でわが研究所を運営している。ま、公爵様からの援助も多大だがね。で、何に煮詰まっているんだ?」
「冒険者用の、携帯型のコンロの改良版」
「ん?」
「雨が降ると、草木が濡れて火起こしができないのよ。生活魔法で木を乾かして火を起こすこともできるけど、魔力は使いたくない。だから携帯型コンロを使う」
そう、この携帯型コンロは高価だが、冒険者たちの間で人気が高いそうな。
教えてコマちゃん、つまりは某カセットコンロ?みたいなの?
「そうですね、おおむね認識は合っています」
「さらに軽量化したいということか」
「そうね」
「ねぇ所長、これなぁに?」
所長の机の上に、瓶に入れられた砂がいくつか並んでいた。
「ああ、今度そうやってお土産物売りにしようか、ランタンの代わりに発光させて非常時の明かりにしたりキャンプにしたりしたらどうかと開発中のものだ。中身は魔石の加工くずだ。どこにでも転がっているわけだし、売れないかな。研究費の足しにしたい」
「これ、ノリでくっつけて塊にできないかな?」
「加工が難しいな」
「いや、ほんの少しで良いの。魔力を注げば着火できるでしょ?」
魔石くずは、いろいろな魔術を組み込まれた魔石のくずだから、一つにまとめてしまうとお互いに喧嘩しあって発火してしまう。砂状のサラサラなら問題ないが、ぎゅっと固めるとたちまち発火する。一定量を超えると、飽和状態が弾けて霧散する。
「お嬢、今度は何を思いついた?」
「この魔石を混ぜた塊があれば、着火剤ができるよね?そうすると火打石を持ち歩かなくても良くなる。雨の日は確実に火を起こせる」
「たくさん持ち歩けないな、霧散する」
「そうなんだよね、大量輸送には向かない」
「第一、そんな量が出ない」
「だよね」
「でも良いアイデアだ」
「紙に書く」
「紙に…」
「いや、携帯型コンロの術式を紙に書くとだな、その紙が携帯型コンロになるよね?燃えないように術式を組めば、使い捨てコンロができる」
「あっ」
アメリア女史はさっと立ち上がって、私をぎゅっと抱きしめると無言で部屋を出て行った。
「で、どうしてそんな模型作ってるの、所長」
「大奥様の手助けになれば、とね」
「ここで考えてても仕方ないよ。所長はお外に出なきゃ」
「はい?」
「誰か力仕事できる人、いないかな」
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