第3話 ぷちっと、はありです。
私が日本の知識をそのまま持ち込まれると困ると言ったわよね? もしも、よ、コマンドとか、コマンドの上司とかが私の存在が危険となった場合は、私は殺されちゃうの?
「どうして私に上司がいるとか考えますかね?」
頭の中に直接住み着いているのがその理由。魔法操作でどうのという問題ではないでしょうに。コマンドが住み着いているのなら、私を監視する意味でもある。違う? 思想的にも監視できるわけだし。
「いやはや、利発なお人です。利発なお人ですが、我々にとってあなたの存在は脅威とはなりません」
どうして?魔法があるなら、私の知識を生かせるかもしれない。その知識が暴走するかもしれない。知識が世界を変えちゃうかもしれない。危険な存在になるかもしれない。わたしが意図してなくても、可能性はあるでしょ?
「答えはノーです。ひとつ、この世界には渡り人、とか異界人、が存在します。もちろん、認知されています。必要な時に、界から召喚する民族も存在しますし、偶然に、時の流れに落ちて渡ってきたものもいます。もちろん、その逆の場合もありますが。だから、先進的な考えや技術を持っていたとしてもそれが暴走して脅威にはならないんです。この時代の歴史が自動的に修正するからです」
じゃぁ相当やらないと脅威にはならないということか。
「そうですね」
じゃぁ、質問。私は間違って転生させられたといったわよね? 間違いだったと。他にも転生者はいるの?
「間違って転生させられてしまったことに関しては深く深く謝罪します。今後こう言った間違いが起きないようにいたします。それから転生者の存在に関してはお教えできません」
欲しいのは謝罪じゃないから謝らないで。戻せないでしょうに。戻せないところに来ているから私の記憶を封印して、必要だから開封した、違う? そして転生者の存在を教えられないのは、私が特別だから。違う?
「どうしてわかったんですか?」
中二病展開だからだよ。一定の条件を満たしたから目覚めた、コマンドをつけるとも言った。つまり、そもそも転生する人がいて、私はその人の身代わり? コマンドつけられて目覚めさせられたのは、そもそも私の存在がイレギュラーで、過去にはなかったことだから。私を目覚めさせたことも、何か目的があるってこと?
「かしこすぎて惚れ惚れします。さすが公爵令嬢」
おだてて話をそらそうとしないの。聞きたいのは、あなたの目的よ。私は、このまま公爵令嬢として成長すれば、ゆくゆくは政略結婚の種にされてどこかのオトコと結婚してっていう王道パターンになるでしょうね。
「ご不満ですか? 今なら多少のコース変更は可能ですが」
せっかく二度目の人生を謳歌するって決めたんだもの。出会いは政略結婚でも良いけど、愛した男と添い遂げたいと思うし、幸せになりたいと思うのはアウト?
「既定路線で用意されていますが」
おじいさまもおばあさまも、お父様もお母様も、お兄様も、領民やこの国の国民が平和で穏やかに暮らせることを望んでいるの。家族が笑って過ごせる国にしたいの、というのは大いなる野望かな?
「そのために何かしたい、ということですか?」
できることからちょっとずつ。大量破壊兵器が欲しいわけじゃないんだけど、氾濫する川の道筋をかえるには何か役立てないかなと。例えば発明したり、膜大な魔力で土魔法で地形変えたりできないかなと。
「発明は、ダイナマイトとかのことを言っています?」
例えばの話ね。この世界に、そんなのはいらないでしょ、魔法があるんだから。そういうの、何かのちょっとした発明とかは、あなた達の目的の邪魔をしているかしら?
「ぶっちゃけ、こちらが懸念しているのは一点だけです。貴方の人生に引きずられて、その人が間違った判断をしてしまうことです。具体的に言えば、渡ってきた異界人が、自分の判断でああしよう、こうしようとするのならそれは問題にはなりません。そうではなくて、何も考えずにああしよう、こうしようと人生を決めるのが困るのです」
渡ってきた人に影響を与えると?
「そうですね。渡ってきた人を、転移者と我々は呼んでいます。あなたのように転生してきた人は転生者ですね。この世界において、両方とも一定数存在します。同時期に存在するのか、どこの国に存在するのかは教えられませんが、この世界において必要なので転生者もいるし転移者も存在すると考えてください。そして、彼らには、貴方も含めてきちんとした役割があります。もしも、誰かの人生に引きずられて、その知識を間違ったことに使うようでしたら間違いなく我々は貴方を処分することになる。つまり、物理的に死んでしまうことを意味します。これは他の転生者や転移者にも共通するルールです」
は? 処分? 勝手に呼び出しておいて?
「ええ、ですから予定的に転生、召喚した者にはコマンドが付きません。貴方は特別だからコマンドが補助につくんです」
つまり、私の存在はイレギュラーで、もしも一定の条件を外してしまったらぷちっとアリのごとく殺されちゃうってわけね。
「いやいや、そんな過激なことはしませんてば」
同じでしょ。例えばの話、反政府組織に加わって新しい国家を起こすんだって、革命家になったとするじゃない?
「話が壮大ですね」
分かりやすいたとえで話しているんですけど。
「はいはい、失礼しました」
革命家になって、それこそゲリラ活動とかしちゃって、民衆が自然に軍事行動したらあなたの上司的にはアウトなわけ?
「いえいえ、かまいませんよ。行動を制限するつもりはないですから」
じゃぁ、もしもコマンドや上司が革命だの、ゲリラだのに反対だった場合は? 意図しない方向に進むわけだよね、民衆は。
「そこに影響を与えることには何ら障害はないのです。理念がないところで、あなたが賛同していないのに、ぼうっとゲリラ活動するとか、ぼうっと大量破壊兵器だの、爆弾だの作られては迷惑ですからね、そういうときにはぷちっと」
ぷちっとしない。ハエやゴキちゃんじゃないんだから。
「いえいえ、文句なくそれは対象になります。思考放棄して無気力になって流されて生きてゆくことに関して処罰対象です。同時に、この先で会う転移者や転生者に対して思考放棄させて無気力にさせて何かさせたりするのもアウトです。ぷちっと対象です」
思考放棄して無気力って…じゃぁ馬車馬のごとく働けって?
「そうはいっていません。現実逃避などの一時的な思考放棄であるとか、脳や体の機能的に認知症になった場合など、病気やけがでそうなった場合は仕方ないですが、そうではない場合にですね…」
ああ、少なくとも私は、影響がありすぎるから人に流されちゃうとあやしい方向に行くからコマンドが矯正するのか。結局私はイレギュラーな存在なわけだ。例えば、医学的知識で麻酔関係を発展的に発達させたり、魔力関係で催眠術とか発展させるのもアウトか。
「自力で答えにたどり着いてしまいましたね」
だから思考を読まないの。
「読むのが私の仕事ですから。ですけれど、あなたの存在はこの世界において、もう大事な人でもありますからね、自覚してください」
7歳の、ただの公爵令嬢だよ?
「とても優秀なお子様です。二度目の人生、謳歌しちゃってください」
含みがあるよね。でもやりすぎは良くないよね。せっかくの異世界で公爵令嬢っていう権力者の娘になったんだよ? 魔法が使えるんだよ? だったら皆が楽しく楽に暮らせるようにいろんな魔道具開発して暮らしを豊かにして金儲けするんだ。ってやると、やりすぎると父様公爵が反逆罪にかけられて一家断罪コースとかになるやつじゃん。
「ええ、それは私たちが手を下さなくてもこの国の政権的にプチっとコースですね。いくら国王と公爵が仲が良いからと言って、許されない話です」
順番間違えるとダメなコースなのね。じゃぁ、最初は小さい単位で実験して、それが成功したら計画書書いて広めりゃ良いんだ。この国に。
「はい?」
国が豊かになるようにすれば良いんでしょ?うん、危なそうならストップかけてね。
「そうします」
発熱した日の翌日、こうして私たちは仲良くなったんだ。ね、コマちゃん。
「コマちゃん言うな」
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