第57話 セオドアのイヤイヤ期
今日も父親の叱責を受けた。
まぁ、仕方ないけど。
ここのところ、夜遊びがひどいとな。確かに、ひどいとは思うよ。ひどいとは思うけど、別に公務をさぼっているわけじゃないし、授業をさぼっているわけじゃない。
そしてもう一つの懸念はチェリーを口説いているということか。まぁそうなるよな、当たり前の感覚だから。
少なくとも婚約中だし、何か大きなことが起きない限りはこの婚約は解消されない。
でも解消を考えている。
ちょっとひどい話だけど。
でもなぁ、そうなるんだよな。それが一番だと思うんだよ、僕としては。
意思疎通ができているというか、クリスティーナは笑って頷いてくれる。思うままにやりなさいとまで言ってくれた、ような気がする。彼女の意志を確かめたら、きちんと見事に「!」マークが返ってきた。
クリスティーナは理解してくれている。だから、夜遊びに出るときには必ずと言って良いほど公爵家から護衛の男が付いてくる。
ラマラン、としか知らない。中年の男で公爵家の護衛の責任者だとかで、学院に定期的に顔を出してきている男だ。
最も、学院でカイルやクリスティーナに付き添っているのはコーニーというメイドがほとんどで、男性の護衛は学院の周囲を巡回することがほとんどで、あまり顔を合わせたことはない。
ジャンが学院内の護衛だということで、四六時中張り付いているからなんだが、時々、違和感がある。それが魔法を使って周囲から姿を消したラマランと複数の護衛官の存在だということに気が付いたのは学院に入ってしばらくしてからだった。この使い手も、公爵の配下の者だとカイルは言った。
まぁ、王子という立場だから仕方ないが。
父上からお説教を受けた後、裏口からそっと王宮を抜け出した。特に待ち合わせていないというのに、ジャンは常にそこにいるのが当たり前、のように付き添ってくる。
「今日も、ですか?」
「今日も、だ」
ロッキード親子の裏付けは取れたが、それだけでは甘い。まだまだ後ろにごろごろいるのだが、彼らを突き止めることができなくて四苦八苦している。
派閥の何人かが協力してくれて、今一網打尽にできないかどうか、いろいろやっていた。
そんな中、美味しい話が転がってきた。
チェリーに対しての脅迫めいたラブレター。
とおもいきや、あっさりそれは公爵家がかっさらっていった。
休み明け、王宮から学院に向かう僕に、満面の笑みで「行ってらっしゃいませ」とこうべを垂れた公爵は、絶対に何か美味しいカードを手にしたに違いない。
ああ、公爵もわかっているのか、と思ったのは間違いない。
世間では反抗期だの、いやいや期だの、青年期にある精神的特徴の一つだの、一時的だの、いろいろ言われているし、そこから逸脱しないようにしているが、まぁ注意は必要だな。
大どんでん返しは楽しい方が良い。
とうきうきしていたら。
王宮を出てすぐの所に今日は珍しい客人がいた。
「なぜ?」
「いや」
彼の足元にはアルベルが付いている。身分を隠しているとはいえ、この「猫」のアルベルは神獣に間違いないだろうし、連れているご本人は「第二王子」に間違いない。
「ちょっと確認をしたかった」
「ジェイ?」
「結婚したい女性を国に連れ帰るとしたらそれは違法になるのか?」
「本人の意思を無視するなら誘拐だが、同意があればしかるべき手続きをすれば認められる」
「それが地位の高い貴族であってもか?」
「基本は本人とその家の当主の判断だな。どうした? 仲介が必要か?」
「いや。そう言うことを気にする相手じゃないからな」
「身分が低いということか?」
「いや、本人が気にする部分じゃぁないということだ」
「へぇ、応援するよ、どんな女性だ?」
「まだナイショだ。うかつに動かれては困るし、第一、彼女には婚約者がいる。彼女が婚約者を選ぶなら、俺は身を引くよ」
「おい?」
「トラブルを起こす気はない。それは約束する」
「一体どんな女なんだ?」
「素敵な女性だよ。今日も夜遊びかい?」
「ああ、ちょっとしたサロンに誘われている」
「気をつけろよ」
「ありがとう」
「じゃぁな」
ジェイはそのまま、世闇にまぎれてどこかへ行った。アルベルも一緒だ。
不思議な奴で、夜な夜なこうやって街をさまよっている。
神獣アルベルが認める魔力を持った女性を探しているんだとか。
ジェイも苦労するよな、お互いに。
いや待て、わざわざ僕にそれの打診するのか?
つまり…そういうことなのか?
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