「なーなー、伸二くん。今更も今さらって感じだけど、なんでそんな出会って間もない私なんかのためにここまでしてくれるってわけ?いや、前の会話じゃないけどさ、私の身体が目当てって思っちゃうのも仕方ねーじゃん、こいつは」そう言って双葉は身構える。「ヤクザの件にしろ、衣食住の面倒みてくれる件にしろさー」

僕たちが会話しているのは、喫茶店〈カルメン〉の二階にある僕の自室、ではなく、近所にあるファストフード店の一角でテーブルを挟んで、ハンバーガーを頬張り、ポテトを摘まんで、ドリンクを飲みながら、会話をしていた。前を見ても隣を伺っても後ろを振り返っても、僕たちが交わしている会話に耳を傾けているやつらはいない。

「あー、まあなんだ」ぽりぽりと僕は頭を掻きながら、「暇潰し、ってやつかな」と答える。

はて?と双葉は首を傾げる。

「僕にはさ、前にも言ったと思うけど、将来の夢とか希望とかねーわけよ。そこで思うわけ、世界に僕がいる意味があるのかな、ってさ 」そこでドリンクを一口飲んで、一呼吸置く。「世界に物語があったとしてさ、僕は主役ではもちろんないし、かといって脇役でもない、いやさ、エキストラでさえもない。生きてても死んでるのと一緒、生きてる意味が見当たらないわけよ。だから、お前じゃなくてもよかったのかもしれねーな、この退屈な現状ってやつを打破してくれるってんならさ」

そんな身も蓋もないこと……、と双葉は困惑している。

「あー、悪い。だけどさ、お前言ってくれたじゃん、僕なら『正義の味方』ってやつになれる、ってさ。あれ、そこそこ嬉しかったんだぜ?」

「きゃは。うん、伸二くんは私の世界の、いや世界の物語の主役になれるよ、きっと。なにせ私のお眼鏡にかなったんだからさ」と双葉はウインクする。

そして、どちらともなく笑った。

この先、僕たちは世界を相手に戦うことになるとも知らずに……。

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