6
終わってみれば、大した事件じゃなかった。僕の世界を変える事件なんて、今までも、そしてこれからもあるはずもない。変えようとも思わないし、変わるとも思ってない。ただそこにあって、それだけの話だ。
僕はヤクザの事務所である雑居ビルになんの躊躇もなく、侵入した。礼状も持ってないし、アポイントメントももちろん取ってはいない。
なかに入ると、狭い廊下、人がギリギリすれ違えるようなそんな狭い廊下があった。僕は、コツ、コツっと、前に進む。そして、誰とも遭遇することもなく、屋内の階段があったので、そこに足を踏み入れた。ヤクザの親分に限らず、なんの例外もなく、偉い存在は最上階にいるってのが相場だ。もしくは、最下層、だ。
その雑居ビルは三階建てで、ステンレス製のドアが内部にあったので、僕はドアノブを捻る。なんの抵抗もなく、それは外側に開いた。
室内には、数人の組員と親分だろう、そんな連中がソファに、椅子に、それぞれ座っていたが、室内に入った僕を見るなり、すくっと立ち上がって、恫喝してきた。
「こいつ、あのときの……!」そう言ったひとりの組員は、なるほど、先日双葉を追い回していたうちのひとりで、僕が暴力を振るった当人だった。
その男は、内ポケットに右手を突っ込む。それを見て、僕は男の左のふくらはぎにローキックを叩き込んだ。すると、がくん、と身体が崩れ落ちた。と同時に一丁の拳銃がこぼれ落ちる。
すぐさまその拳銃を僕は拾い上げ、ぴたり、と男の組員のこめかみに銃口を押し当てる。
「動くな」温度の伴わないそんな声が僕の口から発せられる。「なるべく穏便に済ませたい。暴力は好きじゃないんでね」
「ヒュー、やるじゃないか、坊や。どこの学校でそんな真似を習ったんだい?」部屋の一番奥の椅子に座った男が、たぶん親分であろう、余裕めいた態度でにやり、と意地悪く微笑む。
パンっ。
親分の右肩が大きく仰け反る。僕が握った拳銃の銃口から硝煙が立ち上った。
「僕は、暴力は嫌いだけれど、舐められるのはそれ以上に嫌いでね。そこんとこ、よろしくお願いしますよ、旦那」慇懃な態度で僕は凄んでみせる。「要件を飲んでもらえれば、生命まで奪うことはないと誓いますよ」
それから、銃声は四回ビル内に響いた。それがすべて僕が握った拳銃からだったことは、一応言っておくことにしよう。
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