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「まずは現状を整理しよう。行動に伴う優先順位をつける」と僕は人差し指をぴん、と立てる。「まずひとつめ、お前の身の振り方、だな」
「あー、私、ヤクザの男と付き合うことになったとき、実家のお父さんから勘当、二度と家の敷居を跨ぐなって言われてんだよね」きゃはは、と無邪気に双葉は笑う。いや、笑うとこじゃねーだろ、と僕は呆れ交じりに嘆息する。まあ、そこは実際問題、気にしてはいないし、想定の範囲内の懸念事項である。
「行くとこ、帰る場所がねーんなら、ここにいてもいーよ。家賃、光熱費、食費、その他諸々、出さなくてもいーよ。見たところ、当てもなさそうだし、はなから当てにもしてねーからさ」
双葉は僕の話を聞いて、目をぱっ、と輝かせて僕の手を握りしめてきた。
「伸二くん、いや私の救世主さま、私にできることならなんでも言うこと聞きます!ひとつだけ」
ひとつだけなのかよ。まあ、それも当てにしてねーけどな。
「あ、伸二くん、今なんかよからぬこと想像したでしょ。あーあ、これだから男ってやつは。だけど、伸二くんならいいよ、優しくしてね?」
一発、その頬を殴った。暴力反対!と双葉は目に涙を浮かべながら訴えた。いいことをひとつ教えよう。言葉の暴力ってやつもこの世にはあるってことを。
「ま。それはいいとしてだ。ふたつめ、これが本題といっていい。ヤクザとの関係を綺麗さっぱり切って、クリーンにすることだ」ぴっ、と中指を立てる。
具体的にどうやるのさ?との双葉の疑問に僕は答える。
「暴力を行使するのさ」
ヤクザの事務所は、僕が住んでいる街の中心街にあった。眠らない街、とも呼ばている無法地帯、国家権力の外側にある場所だった。
僕は事もあろうに、徒手空拳、なんの武器も持たずにその事務所の前に立っていた。ちなみに双葉には、事務所の場所まで案内させて、カルメンに帰るよう言い渡した。最初は駄々をこねた双葉だが、一万円札を二枚渡すと、タクシー代にしては少々高額だが、双葉は僕の主観通り守銭奴だったらしく、じゃ、後はよろしく、としゅたっと回れ右をして去っていった。その背中を見送り、僕は事務所のなかに侵入する。
これが正義の味方の最初の仕事となったのだった。
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