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今、僕の部屋には、周防双葉というちょっと変わった少女がいる。どこが変わっているかと聞かれると、んー、なんか全部、みたいなはっきりしない感想がぴったりな印象だ。ヤクザと付き合ったり、その果てでそのヤクザ連中から追われるといった時点でなにをやりたいのか意味がわからない。
「なんか夢だったんだよね、極道の妻って。子供の頃にさ、映画であったわけよ、極道の妻。それ見たときさ、これだ!って思ったわけよ。なんか何者にも屈しない姿が格好いいー、痺れるーってさ」くふふ、と笑う。
「あのさ、結婚てのはまずは相手を好きになるってのが前提条件だろ。動機が極道の妻になるってことじゃ、前提条件がひっくり返るっことで、うまくいくわけねーのは当たり前だろ」
うぐ、っと双葉は呻く。
「そーゆー、伸二くんはどうなのさ。夢とかあるわけ?」
「ないね」きっぱりと僕は否定した。
僕には子供の頃から夢とか希望といったものが欠落していた。友達や大人からは、冷めたやつ、なんて言われたけれど、なんとも思わなかった。人生なんて他人が敷いたレールの上を辿っていくもんだろ、なんて達観したようなことを思っていた。そしてそれは今でも変わらない。夢を叶えられるのは、一部のエリート連中だけだ。そして自分は、いやほとんどの人間はそれ以外に属している。それを認めない奴らだって、実際に大人になったら、現実ってものを知ることになるもんだ。
「はー、冷めてんねー。でもさ、伸二くんならなれるんじゃないかな」
「は?なにに?」
「正義の味方」双葉は神妙な顔をして言う。「うん、きっとなれるよ。私を助けたみたいに、どんな敵もばったばったと倒していくの。クールで格好いいじゃん」
「お前ね、言ってて恥ずかしくないのかよ。それに誰も真剣に取り合ってくれねーよ、正義の味方なんて。信じてくれる奴なんているわけねーじゃん」と僕は顔の前で手を振る。
「信じてくれる人いると思うけどなー、こりゃマジな話」と双葉はウインクして、「少なくとも、ここにひとり」にっこり笑うのだった。
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