僕は当てもなく、バイクを走らせていた。しばらく経って街の中心街に入ると、ビルの陰から少女が飛び出してきた。うわ、っと僕は咄嗟にブレーキをかける。

その少女に続いて、三人組の男たちが追いかけるように現れた。

「おい、ガキ、大人をあんま舐めんなよ。金が払えねーなら、いくらでも仕事を紹介してやるからよ」と三人組のリーダー格であろうキャップを被った男が凄んでいる。「その前に俺らと遊んでからにしとくか、ええ?」

よく見ると、少女の顔には青あざがあった。こいつらに殴られた痕だろう。

少女は、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりして、歩道に腰をつけて震えている。

「ロリコンさん、僕がこの子の代わりに遊んでやる、よ!」と僕はキャップの男を殴った。男はその場に崩れ落ちる。その崩れ落ちた男の顔面を右足で蹴りあげると、どっ、と男の鼻から血が吹き出し意識がなくなったように昏倒した。

さて、と他の二人組に鋭い視線を向けると、キャップの男を無視して、逃げ出していく。僕はその後ろ姿を見届けると、少女に手を伸ばした。

「立てるか?」と僕が訊くと、少女は目を輝かせて両腕で僕を抱き締める。

「すげーよ、おにーさん、奴らプロだぜ?あんた何者なのさ?」と声を弾ませて、きゃはは、と笑うのだった。


いくら人通りが少ないとはいえ、今の立ち回りを見ていた数人の通行人が遠目にこちらを伺ってくるので、警察を呼ばれたら厄介だな、と思い、少女をバイクの後部座席に座らせてその場を走り去った。


こいつ、あいつらのこと、プロって言ってたよな。咄嗟に助けてしまったけど、そのせいで僕も奴らに狙われることになるんじゃなかろうか。

そんな僕の思考を知らずに少女は「なーなー、おにーさんの名前教えてくれよ」とあくまで楽観的な調子で訊いてくる。そんな少女の態度にすっかり毒を抜かれてしまった僕は、

「黒崎、黒崎伸二だよ」と正直に答える。「そっちは?」

「周防双葉ってーの。よろしくね、伸二くん」初対面ながらやけに馴れ馴れしい。これが彼女のデフォルトなのだろう。

僕は、取り敢えず二人で話ができる場所に向かうことにした。

毒を食らわば皿まで、だ。


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