反逆のラビリンス

椎名まじめ

視界に映るのは、青い、ただただ青い空だった。

ここは学校の屋上で、僕はそのアスファルトの上で仰向けに寝転んで、すーっとミントのタバコを吸っていた。紫煙は空に吸い込まれるように消えていく。そんなとき、

「またサボりかよ、黒崎」と聞きなれた声が僕の鼓膜を震わせた。「お前ね、もう三年生なんだぜ?将来の希望とか進路とか決めなきゃならねーんだぞ」

この男みたいな喋り方をする女は、僕の担任の葵冴子だ。この担任は、学生がタバコを吸ったり、バイクに乗ったりするのを見逃してくれる珍しい先生なんだけど、それは放任主義とか無責任ってわけじゃなく、誰よりも生徒に寄り添って考えてくれる今時見ない先生なのだ。

それにしても、将来、ね。

「あるよ、冴子先生。将来の夢ってやつが」

僕は立ち上がって、ぷっ、とタバコを吐き捨てて言う。

「世界せーふく」そう言って、ぽん、と冴子先生の肩を叩いて、僕は屋上の出口に向かった。

「黒崎!」

やれやれ、暑苦しいね、まったく。それでも憎めないところがいかにも冴子先生らしい。僕はそんな先生が嫌いじゃない。なんだか同じ匂いがするのだ、この冴子先生は。だからなんだと言われても、それだけだ、としか言えないが。


僕はその足で学校にある駐輪場に向かった、そこに停めてある自分のバイクに跨がる。もちろん無免許だ。ヘルメットも被らない。そのままエンジンを掛けて、アクセルスロットをひねる。

陽はまだ高い。昼前だ。人は学校や会社に行っている時間帯だから、道路には車も人通りも少ない。だから、目に止まった。

それが偶然の産物であることは間違いない、と後に思うが、何者かに導かれた出会いと言われても否定はできない。そんな出会いだった。


周防双葉というひとりの少女との出会いは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る