第二話 再会
「葵さま、一度お会いしたと思います。改めて、わたしは坂田千歳と申します」
「……お前が俺の許嫁か」
「はっ、はい……!」
「俺は黒川葵だ」
黒川葵は
髪は
葵は男らしい性格の印象を受ける。
千歳は黒川家の敷地を
荷物はもう持ってきている。全て運搬された。千歳はビクリとする。両家の合意もあり、二人は許嫁だ。
実父と養父の計らいもあり千歳はこれから葵の家で暮らしていけ、ということだろう。
千歳は葵の言葉にビクリと
「ここでは俺の言うことは絶対に従え。いいか?」
「俺が出ていけと言ったら出で行け」
千歳は葵の冷徹な言葉に身が縮こまる。
良いという事なのだろうか。
「……
千歳が葵の顔を見上げると、葵は冷徹な眼だ。人を見下すとはこういうことだ、とそんな目つきだ。
「……お前、荷物はこれだけか?」
「はっ、はい!」
なぜこんなに許嫁は冷たいのだろう。そう、葵は冷徹な人と噂されている。葵の真意のほどが読めない眼に戸惑いを隠せない。
引っ越しの作業が終わり、千歳はおでこにひんやりとした汗をかいた。
「……お前」
「はっ、はい……!」
「お前の髪になにか付いてるが」
「え?」
「……花びらだな」
「そ、そうですか……」
千歳は慣れない暮らしを始めた。廊下で葵を呼び止める。
「あっ、葵さま」
「なんだ? 用があるなら手短に言え」
そう言うと去っていた。千歳は
あさが来た。
米を炊く匂いがする。千歳はおでこに手をやった。使用人が襖を開けてもよろしいでしょうかと尋ねる。大丈夫です、と答えた。葵と許嫁になって夜が明けた頃か。
「千歳さま、ご飯のお支度ができました」
千歳は思う。昨日の葵の冷徹な瞳が怖い。あの眼は誰に向けられているものだろう。あんな目つきを見たことがない。
朝は葵とご飯を食べた。
葵はぱくつく。見ず知らずの男性と同じ家で暮らすのは緊張する。
「行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
葵が家を開けてるときはこうして、本を読んで過ごす。あとは雑誌を読んだりしていた。すると
◇◇◇
葵の屋敷は純和風の建物であり、建物は決して豪華絢爛で華美ではない。だが、良い雰囲気の屋敷だ。葵が甘味処の常連客のときは誠実な印象だった。だが、いまの葵は威圧的な印象で少し、怖い。だが、葵があの感じになるのはなにか事情があったのだろう。
千歳はお塩を買いに街まで降りる。千歳は街中を一人で歩いている。ふと横目流しに見ると、葵の姿が見えた。葵の隣にはとても綺麗な女性がいた。葵はその女性と歩いていると、快活に笑う。千歳は悲しく思う。千歳に葵はあんな
「おかえりなさいませ。葵さま」
千歳は出迎える。すると葵は千歳に顔を近づけた。少々千歳は気恥ずかしい。
「お前。ちゃんと昼食を摂ったのか? 顔色が蒼白だ」
「は、はい。ちゃんと摂りました」
「本当か?」
「は、はい!」
「葵さま。今日は
「ああ、お前の好きにしていい」
屋敷の料理人が作ってくれた豪勢な鍋料理に千歳はびっくりした。鍋をつついている。食べ終わる。二人は同時にごちそうさま、と言う。声が重なる。千歳は首を傾げる。箸を置いて葵はこう尋ねた。
「明日は俺の仕事が休みだ。お前と出かけようと思う。どうだ?」
「はい……」
葵にあのご婦人は、と。聞きたいところだが直接聞くのは野暮だろう。千歳は台所の料理人の方に丁寧にごちそうさまでした、と礼を述べた。茶の間を後にした。一人になる。息が少し荒いが、廊下を歩き、千歳はそのまま、寝室に向かおうとする。
「千歳!」
誰かが千歳の手首を掴んだ。千歳が振り向くと葵がいた。
「お前、顔色が悪いが」
葵は冷たい表情の儘そう言う。
「……だ、大丈夫です」
「……そうか」
千歳には、愛がなにかも解らない。
「……葵さま。今日は疲れたでしょうからゆっくり、おやすみになってください」
「ああ、おやすみ」
葵はそう返答した。それ以上は葵は何も聞かなかった。千歳はそのまま寝室に行き、布団にくるまって眠った。
お天道様が昇る頃。お米を炊く匂いがした。千歳の意識は、ぼんやりとした中、起きた。千歳はおでこに手をやった。千歳は顔にひんやりと汗をかいていた。千歳が女学校の頃を夢で見た。最近は夢見が悪い。けれども、されども、千歳は家が恋しい。そして、優しかった許嫁はなぜ、こんなにも冷たいのだろう。
千歳はつらいときは片時も離さず、持っていた母の形見を抱き締め、涙する。千歳なりの克服方法である。
(……お母さん。会いたいよ)
千歳は母、
身支度をする。千歳は
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