第12話 私と貴女⑫
「そっか、ごめんね気づいてあげられなくて……」
申し訳なさそうに謝られたので慌てて否定する。
「ううん、いいの気にしないで!
それに今はこうして一緒にいられるんだからそれだけで十分だよ!」
そう言うと彼女も微笑んでくれたのでホッと胸を撫で下ろした。
その後は二人で朝食を食べてから登校の準備をして家を出たのだが、そこで重大な問題が発生したことに気づいた。
それは何かと言うと、そう服である。
(大事なことなので2回言いました)
あちゃーやっちゃったなーと思いつつ頭を抱えていると隣を歩く彼女が心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうしたの? 具合悪いの?」
本気で心配してくれている様子の彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、
「えっと、その……服をどうしようかと思って……」
と伝えると、一瞬キョトンとした表情になった後、納得したように頷いていた。
「あーそういうことか、確かにこのままだとまずいかもね……」
うーんと唸りながら考え込んでいる様子だったので黙って待っていることにした。
しばらくして考えがまとまったらしく、こちらを向くとこう言った。
「そうだ! 私の家に寄って行こう!」
「えっ!? それって大丈夫なの?」
いきなりの提案に驚いていると、笑顔で答えてくれた。
「大丈夫だよ、むしろ好都合かも?」
どういうことだろうと思っていると、愛梨は悪戯っぽく笑って言った。
「だって、そうすれば堂々とお揃いの制服で学校に行けるでしょ?」
なるほど、そういう意図があったのかと納得しつつ、それならいいかと思い了承することにした。
「わかった、それじゃあお邪魔させてもらうね」
そうして愛梨の家に向かうことになったのだった。
「ただいま〜」
と言いながら玄関を開ける彼女を後ろから見つつ中に入ると靴を脱いで揃えた後、リビングへと向かった。
リビングに入るとソファに座っていた女性がこちらを振り返り驚いたような表情をしていた。
おそらく母親なのだろうと思いながら会釈をすると向こうも同じように返してくれたのでホッとした。
すると突然母親が立ち上がりこちらに近づいてきたかと思うと、愛梨の肩を掴んで問い詰めるような口調で話し始めた。
「ちょっとあんたこんな時間まで何してたのよ!?」
(うわぁ……めっちゃ怒ってる……)
その様子を見ていた私は恐怖を感じていたのだが、当の本人はどこ吹く風といった様子で平然としていた。
それどころか余裕すら感じられる態度で受け答えをしているように見えるくらいだ。
さすがだなぁと思う反面、
「あの、愛梨、お母さんがお怒りですけど大丈夫ですか……?」
恐る恐る尋ねると、彼女はにっこりと微笑みながらこう言ってきた。
「うん、平気だよ。いつものことだしね」
「そ、そうなんだ……」
その言葉に驚きつつも、同時に安心感を覚えた。
(よかったぁ……愛梨がいつも通りなら大丈夫かな……)
そんなことを考えていると、愛梨は母親に向き直って言った。
「それより母さん、今日は友達を連れて来たんだけどいいかな?」
その言葉を聞いた母親は怪訝そうな表情を浮かべていたが、やがて諦めたようにため息をついた後で頷いた。
(おお、すごい……愛梨ってやっぱり強いんだな……)
などと感心していると、
「初めまして、愛梨とお付き合いさせていただいてます、花音と申します」
そう言って頭を下げる私を、愛梨の母親は黙って見つめていたが、しばらくすると口を開いた。
「そう、あなたが……。話は聞いてるわ、いつも娘がお世話になってるわね」
「いえ、こちらこそ」
そう返すと、彼女は少し考える素振りを見せた後でこんなことを言い出した。
「せっかく来てくれたのだからゆっくりしていきなさい、部屋は余ってるし泊まっていっても構わないわよ」
突然の提案に驚く私たちだったが、愛梨はすぐに承諾した。
「わかりました、お言葉に甘えさせていただきます」
それを聞いた母親は満足そうに頷くと、私たちについてくるように言った。
「こっちよ」
案内されたのは二階の奥の部屋だった。
扉を開けるとそこは可愛らしい内装になっていて女の子らしい部屋になっていた。
(わぁ〜かわいい!)
思わず見惚れてしまったが、ハッと我に返ると慌てて視線を逸らした。
そんな様子を愛梨がニヤニヤしながら見ていたことには気づかなかったのだった。
それからしばらくの間、三人で談笑していたのだが、不意に愛梨が時計を見ると立ち上がった。
「ごめん、そろそろ行かなきゃ」
それを聞いた母親は残念そうにしていたが、すぐに笑顔になると愛梨に言った。
「あらそうなの、気をつけて行ってらっしゃい」
それに対して愛梨も笑顔で答える。
「行ってきます、また後でね」
そう言って部屋を出て行く彼女を見送った後で、私は気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、愛梨はいつもあんな感じなんですか?」
すると、意外な答えが返ってきた。
「ええ、そうよ。あの子ったらあなたのことばっかり話すものだからてっきり知ってるものだと思ってたけど違うのかしら?」
「はい、初めて聞きました……」
まさかそこまで想われているとは思っていなかったので顔が熱くなるのを感じた。
「ふふっ、照れちゃって可愛い子ね。でも安心してちょうだい、あの子はあなたにぞっこんみたいだから浮気とかはしないと思うわ」
それを聞いて安心したのと同時に嬉しくもあった。
しかしそれと同時に不安にもなった。
なぜなら、
「そんなことわかってますよ、ただ私が愛梨のことを好きすぎるだけなんです……!」
私がそう叫ぶように言うと、彼女は驚いたように目を丸くした後でクスクスと笑った。
そして、優しく抱きしめてくれた。
彼女の温もりを感じながら幸せに浸っていると、耳元で囁かれる声がした。
「大丈夫よ、自信を持ちなさい」
その言葉を聞いた途端、涙が溢れてきた。
それを拭うこともせず、ただただ泣き続けたのだった。
しばらくして落ち着いたところで顔を上げると、そこには慈愛に満ちた表情を浮かべた彼女の姿があった。
それを見て安心するとともに心が満たされていくのを感じたのだった。
それからしばらく経ってようやく落ち着くことができたので改めてお礼を言うと、
「いいのよこれくらい、それよりもこれからも娘をよろしくね」
と言って送り出してくれた。
玄関を出ると既に車が待っていたので急いで乗り込むと出発した。
車内では特に会話もなく静かな時間が流れていたが気まずいとは思わなかった。
むしろ心地よいくらいである。
そんな中、ふと気になったことがあったので尋ねてみることにした。
「そういえばさ、なんで制服のまま学校に行くことにしたの?」
そう聞くと、彼女は当たり前のように答えた。
「だってその方が楽しいじゃん!」
ああ、やっぱりこの人は凄い人だ……そう思った瞬間だった。
「それに、これで堂々と手を繋いで歩けるしね!」
そう言いながら私の手を取ると指を絡めてきた。
それに応えるように握り返すと、嬉しそうに微笑んでくれた。
(ああ、好きだなぁ……)
そう思いながら見つめていると目が合ったので恥ずかしくなって目を逸らそうとしたところで、頬に柔らかい感触がした。
驚いてそちらを向くと、いたずらっぽい笑みを浮かべた彼女と目が合う。
「隙あり!」
どうやらキスされたようだ……しかも唇に……。
その事実を認識した瞬間、一気に体温が上がるのを感じた。
「もう、いきなりやめてよね……」
恥ずかしさのあまり俯きながら文句を言うと、愛梨はさらに追い打ちをかけてきた。
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど恥ずかしいんだよ……」
もう勘弁してくれという気持ちを込めて弱々しく抗議すると、彼女はクスリと笑って言った。
「ごめんごめん、つい可愛くてやっちゃったんだ許してね」
そう言われてしまうと何も言えなくなってしまうので黙っていることにしたのだが、
それが逆に仇となったようで今度は首筋に吸い付かれてしまった。
チクッとした痛みが走ったかと思うとすぐに解放されたのでホッと胸を撫で下ろす暇もなく、
今度は耳に息を吹きかけられたり甘噛みされたりしたので堪らず悲鳴を上げてしまう。
「ひゃうっ!?」
変な声が出てしまい恥ずかしかったが、
それ以上に気持ちよかったのでもっとして欲しいと思ってしまった自分がいることに気がついて愕然とする羽目になったのであった。
「愛梨、お願いだからこれ以上はやめて〜」
情けない声で懇願すると、渋々といった感じではあったがやめてくれたのでほっと息をつく。
(危なかったぁ……危うく堕ちるところだったよ……)
そんなことを考えていると、突然愛梨の顔が近づいてきて唇を奪われた。
最初は軽く触れるだけの優しいものだったのだが、
次第にエスカレートしていき舌を入れられて口内を舐め回されるような激しいものに変わっていった。
息苦しくなって離れようとするが、後頭部を押さえられて逃げられないようにされてしまったためされるがままになってしまう。
しばらくして解放される頃にはすっかり蕩けてしまっていた。
(愛梨ってこんなに上手かったっけ……?)
ぼんやりとした頭でそんなことを考えていたが、
「ねえ、このまま続きしてもいい?」
という問いかけにハッとして我に返った。
「だ、だめだよっ! 学校に遅刻しちゃうでしょ!」
慌てて拒否すると不満そうな顔をされたが、なんとか押し切ることに成功した。
その後、無事に学校に到着するまでの間ずっと手を繋いだままだったのだが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
それどころか安心感を覚えていて、愛梨のことが好きだという気持ちがより一層強くなったような気がした。
(やっぱり私はこの人が好きだ……)
心の中で再確認した後で、これからどんな風に愛梨に接しようか考えていたが、結局答えは出なかった。
私は生徒会長なので、生徒会室へ寄って行く。
愛梨はそのまま自身の教室へと向かうのです。
「じゃあ、また後でね〜」
手を振りながら去っていく愛梨を見送ってから私も生徒会室へ向かいます。
「おはようございます」
挨拶をしながら中に入ると、既に何人かの生徒が来ていました。
その中には私の親友の姿もあります。
「おはよう、花音」
笑顔で出迎えてくれた彼女に挨拶をしていると、他の生徒も集まってきました。
「会長、おはようございます」
「今日もお綺麗ですね」
などと口々に褒めてくれるのですが、正直言ってあまり嬉しいとは思いません。
というのも、彼女たちは私の外見しか見ていないからです。
その証拠に、私が生徒会の仕事をしていても手伝うどころか邪魔ばかりしてくるのですから困ったものです。
「ちょっと、そこ間違ってるよ」
そう言って指摘すると慌てて直していましたが、
「ありがとうございます」
と言いながら媚びるような視線を向けてくるのを見てうんざりしました。
(本当に気持ち悪いわね……)
内心で悪態を吐きつつ作業を続けているうちに昼休みになりました。
いつものように愛梨と一緒にご飯を食べようと誘おうとしたところ、クラスメイトに呼び止められてしまいました。
仕方なく話を聞くことにします。
内容は予想通りでしたが、その内容というのが問題でした。
要約するとこうです。
『最近付き合いが悪い』とのことでした。
確かに最近は愛梨と一緒にいることが多かったかもしれませんが、だからといって文句を言われる筋合いはないはずです。
そもそも私には友達と呼べる人がいませんし、クラスで浮いている自覚もあるので今さらどう思われようと知ったことではないと思っていました。
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