第13話 私と貴女⑬
「すみません、用事があるので失礼します」
それだけ言い残して立ち去ろうとすると腕を掴まれました。
振り返るとそこにいたのは、クラス委員長の女子生徒でした。
名前は知りませんが顔は知っています。
確か学級委員をやっている方だったと思います。
その彼女が真剣な表情でこちらを見つめていました。
「……離してもらえませんか?」
そう問いかけると、彼女は首を横に振りました。
「いいえ、離しません」
きっぱりと言い切る姿に苛立ちを覚えましたが、ここで揉めても仕方がないと思い直して冷静に対処することに決めました。
「何か御用でしょうか? それとも私に文句でもあるのでしょうか?」
そう言うと、彼女は少し驚いたような表情を見せましたがすぐに元の表情に戻して言いました。
どうやら図星のようでした。
それからしばらく沈黙が続いた後で、彼女は意を決したように口を開きます。
そして、とんでもないことを言い出したのです。
それは、私が愛梨と付き合っていることに対して異議を唱えるものでした。
私は驚きのあまり言葉を失いました。
まさかそんなことを言ってくる人がいるとは思ってもいなかったからです。
ですが、同時に納得できる部分もあったのも事実です。
何故なら、私自身も同じように感じていたからなのです。
つまり、私と愛梨の関係をよく思っていない人は多いということです。
しかし、だからと言って諦めるわけにはいきません。
なぜなら、私にとって愛梨はかけがえのない存在であり、何よりも大切な宝物なのだから。
だからこそ、絶対に手放すわけにはいかないのだ。
例え相手が誰であろうと、これだけは絶対に譲れない。
そう思った瞬間、自然と体が動いていました。
目の前の女生徒の襟首を掴んで引き寄せると、そのまま口づけを交わしました。
突然のことで驚いていた彼女でしたが、しばらくすると大人しくなりました。
唇を離すと、そこには顔を真っ赤に染めた彼女の顔がありました。
(可愛いなぁ……)
思わず見惚れていると、不意に背後から声をかけられました。
振り向くと、そこには愛梨の姿がありました。
どうやら心配して様子を見に来たようです。
そこで、一部始終を目撃してしまったのでしょう。
その顔は青ざめており、明らかに動揺している様子が窺えました。
そんな彼女に対して、私は微笑みかけると優しく語りかける。
「大丈夫だよ、心配しないで?」
そう言いつつ頭を撫でてあげると、安心したのか表情が和らいできた。
それを見て安心すると同時に、目の前にいる彼女をどうするか考えることにする。
とりあえず、このまま解放するのはまずいと思ったので拘束しておくことにした。
後ろ手に縛った上で猿轡を噛ませると、近くの柱に縛り付けることにした。
これでひとまず安心だろうと思っていると、愛梨が話しかけてきた。
「大丈夫だった?」
心配そうに見つめてくる彼女に微笑んで答える。
「うん、平気だよ」
それを聞いた彼女はホッとした表情を浮かべた後、こんなことを言ってきた。
「そっか、なら良かったよ」
それからしばらく談笑していたのだが、
「ところでさ、さっきのキスって何なの……?」
唐突に尋ねられたので驚いてしまう。
(見られてたのか……どうしよう……?)
内心焦っていたが、なんとか平静を装って答えた。
「えっと、あれはね……」
と言って言葉に詰まる私を愛梨は黙って見つめているだけだったのだが、
その瞳からは強い意志のようなものを感じた気がした。
まるで全てを見透かされているような気がして怖くなった私はつい目を逸らしてしまった。
それがいけなかったのだろう、彼女の目つきが変わったような気がした次の瞬間には押し倒されていた。
驚く間もなく馬乗りになられて身動きが取れなくなってしまったため抵抗できずにいると、
ゆっくりと顔を近づけてきたかと思うと耳元で囁かれる。
「ねえ、私にも同じことしてよ」
「えっ!?」
予想外の要求に戸惑っていると、さらに追い打ちをかけてくる。
「ほら早く、してくれないの?」
そう言いながら首筋に吸い付いてくるので背筋がゾクッとする感覚に襲われる。
(これはもう逃げられないかな……)
観念した私は覚悟を決めることにした。
「わかったわ、してあげるわよ!」
そう言って唇を重ねようとした瞬間、愛梨はニヤリと笑って言った。
「待って、その前に私もするからね?」
その言葉を聞いた途端、嫌な予感がしたので逃げようとしたが遅かったようだ。
あっという間に組み伏せられてしまい、身動きが取れなくなってしまう。
「ふふっ、捕まえた♡」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌てて抗議するが聞き入れてもらえないようで、強引に唇を奪われてしまう。
最初は軽く触れるだけの優しいものだったのだが、次第に激しくなっていくにつれて頭がボーッとしてきた。
気がつくと自分から求めるように舌を絡ませてしまっていた。
(ああ、ダメだ……気持ちいい……)
完全に蕩けきった状態でされるがままになっていると、ようやく解放された頃にはすっかり息が上がってしまっていた。
そんな状態の私に構わず、愛梨は再び覆い被さってくると今度は耳に噛みついてきた。
「ひゃうっ!?」
突然の出来事に悲鳴を上げるが、そんなことはお構いなしといった様子で執拗に攻め立ててくる。
「やめてぇ! 耳弱いんだからぁ!」
必死に訴えかけるものの聞いてもらえるはずもなく、むしろ逆効果だったようだ。
「知ってる♡だからやってるんだよ? 花音の弱点をいっぱい可愛がってあげるから覚悟しなさいよね」
そう言って舌なめずりをする姿は妖艶な雰囲気を漂わせていてとても魅力的に見えたが、それと同時に恐怖心も湧き上がってきた。
(このままじゃ本当に食べられちゃうかも……)
そんなことを考えている間に再び耳を舐められ始めてしまい、その度にビクビク震え上がることしかできなかったのだった。
「ふわぁ〜あ〜」
大きなあくびをしながら伸びをして起き上がると時計を確認するためにスマホを手に取る。
時刻は午前6時30分を示していた。
「まだこんな時間かぁ……」
今日は土曜日なので学校は休みなのだが、生徒会の仕事があるので早めに登校しなければならないのだ。
(面倒くさいけど仕方ないよなぁ……)
そう思いながらベッドから降りると身支度を整えてから部屋を出る。
玄関で靴を履いている時にふとあることを思い出した。
(そういえば愛梨って今日暇なのかな……?)
せっかくだし誘ってみようと思い立ち電話をかけてみることにした。
2コールほどで繋がったので挨拶を交わす。
『もしもし?』
「おはよう、愛梨起きてる?」
そう尋ねると、彼女は眠そうな声で返してきた。
『んー、今起きたとこ……』
それを聞いて苦笑するしかなかったが、気を取り直して本題に入ることにする。
「あのさ、よかったら一緒にどこか行かない?」
そう提案すると少しの間沈黙が続いた後で返事が返ってきた。
『いいよー』
という気の抜けた感じだったが、了承してくれたようなのでホッと胸を撫で下ろす。
それから待ち合わせ場所を決めると電話を切った。
待ち合わせの場所に着くと既に愛梨の姿があった。
待たせちゃったかなと思って慌てて駆け寄ると彼女は笑顔で迎えてくれた。
それから二人で電車に乗り込んで目的地へと向かうことになった。
「どこ行くの?」
愛梨が聞いてくるので私は迷わず答える。
「遊園地に行こうと思ってるんだけど、どうかな?」
すると彼女は嬉しそうな表情を浮かべて頷いてくれた。
「いいね、楽しそう」
そんなわけで私たちは最寄りの駅からバスに乗って移動することにした。
休日ということもあり車内はかなり混み合っており、座ることはできなかった。
仕方なく立ったままでいることにしたのだが、これが意外と大変だったりする。
というのも、座席がないということはつまりそういうことであるからだ。
つまりどういうことかというと、乗客たちのお尻によって私たちの体は前後左右から圧迫されるということだ。
しかもそれだけではない。
「ちょっと狭いわね……」
愛梨が呟くように言った。
確かにその通りだと思う。
何しろ満員電車並みの人口密度なのだ。
当然と言えば当然だが、それにしても暑苦しいことこの上ない。
(でもまあ、我慢するしかないか……)
そう割り切ることにして窓の外を眺めることにした。
そんな時に愛梨から声をかけられる。
「花音、人口密度高いし、ふふっ、キスしてあげる」
いきなりの提案に驚いているうちに唇を奪われてしまった。
ちゅっと音を立てて離れると彼女は、悪戯っぽく微笑んだ。
「どう? ドキドキした?」
そう言われてドキッとしたが、それを悟られないように平静を装って答えた。
「べ、別にこれくらい大したことないしっ!」
強がってみせると愛梨は、クスクスと笑った後でこう言った。
「そっか、じゃあもっとキスしてあげる」
それから何度も唇を重ねられたせいで頭の中が真っ白になってしまった私は何も考えられなくなってしまい、ただされるがままになっていた。
やがて目的の駅に到着すると、ふらふらとしながらも何とか降車することができた。
「はぁ……やっと着いたね……」
私がそう言うと愛梨が答えてくれる。
「そうだね、疲れたでしょ?」
それに対して頷くと彼女は、微笑みながら頭を撫でてくれた。
その感触が心地よくて思わず目を細めると、不意に手を握られた。
驚いて顔を上げると愛梨と目が合ったので微笑みかけると微笑み返してくれたので嬉しくなった。
そのまま手を繋いで歩いていると、すぐに入場ゲートが見えてきた。
チケットを買って中に入ると、そこにはたくさんのアトラクションがあった。
どれも楽しそうなものばかりだったので目移りしてしまうほどだったが、
その中でも特に興味を惹かれたものがあったので愛梨に提案してみることにした。
「ねえ、あれ乗ろうよ」
指差したのはジェットコースターだった。
愛梨は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔になって頷いた。
「うん、いいよ」
というわけで早速列に並ぶことになったのだが、待っている間中ずっと視線を感じていた。
(やっぱり目立つなぁ……)
そんなことを思いながら周囲を見回すと、やはりと言うべきか私たちに注目が集まっているようだ。
それもそうだろう、何せ今の私たちは制服姿なのだから目立って当たり前だ。
しかし、今更気にしたところで仕方がないので開き直ることにした。
(まあいいか、見られて減るものでもないしね)
そう思っているうちに順番が来たので乗り込むことにした。
安全バーを下ろして出発を待っていると、愛梨に話しかけられる。
「ねえ、怖くない?」
不安そうに見つめてくる彼女に笑いかけながら答えた。
「大丈夫だよ、愛梨と一緒だもん」
それを聞いた愛梨は安心したようだった。
そして、ついに発車の時を迎える。
ゆっくりと動き出したと思ったら一気に加速していく。
それに合わせて歓声が上がった。
(すごいスピードだな……)
そう思った次の瞬間にはもう頂上に到達していた。
そこから見える景色はとても綺麗だったが、楽しむ余裕などなかった。
(怖い……)
そう思っていたら愛梨が手を握ってきた。
驚いて彼女の顔を見ると微笑んでくれる。
それだけで安心できた。
(ありがとう、愛梨)
心の中で感謝しつつ、最後まで乗り切ったのだった。
「楽しかったね〜」
愛梨が満足そうに言うので私も同意する。
「だね、また来ようよ!」
そう言って笑い合うと、次の乗り物を目指して歩き始めた。
その後も色々なアトラクションを楽しんだ後、最後に観覧車に乗ることにした。
ゴンドラに乗り込み向かい合って座ると、徐々に高度が上がっていくにつれて街の様子がよく見えた。
「わあ、綺麗だねぇ」
愛梨が感嘆の声を漏らす。私も同感だった。
「ほんとだ、すごく綺麗」
しばらく無言で眺めていると愛梨が話しかけてきた。
「花音、キスしたい」
唐突に言われて動揺してしまったが、なんとか平静を装って答えることができた。
「い、いいけど……どうしたの急に」
戸惑いつつも承諾すると、彼女は嬉しそうに抱きついてきてキスをしてくる。
最初は軽く触れるだけの優しいものだったが、次第に激しくなっていくにつれ頭がボーッとしてきた。
(気持ちいい……)
蕩けきった表情でされるがままになっていると、ようやく解放された時にはすっかり息が上がってしまっていた。
(やばい、これ癖になりそう……)
そんなことを考えていると、突然耳元で囁かれる。
「好きだよ、愛してる」
突然の言葉に驚きながらも聞き返すと、さらに強く抱きしめられた。
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