第9話 私と貴女⑨

「ふーんそうなんだ、それじゃあこれからは避けたりしないでね?」

笑顔でそう言われた私は頷くことしかできなかった。

「わかったわよ、約束する」

私が答えると愛梨は満足そうに微笑んでいた。

こうして、無事に仲直りすることができたわけだけど、まだ問題は残っているのよね。

というのも、今私達が置かれている状況が非常に不味い状態だからだ。

いくら恋人同士とはいえ、私のお部屋でずっと二人きりでさっきからドキドキが止まらないし、

心臓の音もだんだんと大きくなるし、どうしようって困っていると愛梨がこちらを笑顔で見つめているの。

「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

私が聞くと彼女は首を横に振って否定した後、こう言った。

「ううん、なんでもないよ〜」

ニコニコしながら答える彼女を見て、それ以上追求する気になれなかったので諦めることにした。

(まあいっか……)

そんなことより今は目の前のことに集中しようと思い直すことにした。

「それにしても、今日は暑いよね」

愛梨が手で顔を扇ぎながらそんなことを言ってきたので、私も同意することにした。

「そうね、確かにちょっと暑すぎるかも」

そうすると、彼女は突然立ち上がり窓の方へ歩いて行くとカーテンを閉めてから戻ってきた。

「これでよしっと!」

「何がいいの?」

意味がわからず聞き返すと、愛梨は得意げな表情で答えた。

「ふっふ〜ん! こういうことだよ〜!」

そう言うなり、いきなり抱き着いてきた!

「ちょ、ちょっと何してるの!?」

慌てて引き剥がそうとするがびくともしない。

それどころかさらに強く抱きしめられてしまう始末だ。

(まずい……このままじゃ……)

そう考えているうちにどんどん顔が近づいてくる。

そしてついに……。

(チュッ)

キスをされてしまった。

しかもディープの方である。

(やばい……気持ち良すぎて何も考えられない……)

頭の中が真っ白になる感覚に襲われる中、

「ぷはっ……!」

やっと解放された頃には、息も絶え絶えといった状態だったがなんとか耐えることに成功したようだ。

(危なかったぁ〜! もう少し遅かったら完全に堕ちてたかもしれないわ……気をつけないとね……)

そんなことを考えていたのだが、ふと我に帰ると目の前には愛梨の顔があった。

その顔は真っ赤に染まっており目も潤んでいるように見えるのだが気のせいだろうか……?

いや違う、これは間違いなく発情しているのだ。

(どうしてこうなったんだっけ……?)

「ねぇ、もう一回してもいい?」

上目遣いで聞いてくる彼女にドキッとするものの平静を装って返事をすることにする。

「ダメに決まってるでしょ」

すると、愛梨はしょんぼりしてしまった。

「そっか……そうだよね……」

(うっ……そんな顔されると罪悪感が湧いてくるじゃない……)

仕方なくフォローしてあげることにする。

「ま、まぁどうしてもって言うならしてあげてもいいけど……?」

それを聞いた瞬間、彼女の顔がパァッと明るくなったような気がした。

(わかりやすい子だなー)

苦笑しつつも、もう一度キスをすることになったわけだが、今度は私からすることにした。

(さっきはよくわからなかったから今度こそしっかり味わっておかないとね)

そう自分に言い聞かせつつ、

「いくよ? いい?」

一応確認を取ると愛梨は黙って頷いた。

それを合図にして顔を近づけていく。

(うわぁ……すごい緊張してきた……)

心臓がバクバクいっているのがわかるほど鼓動が激しくなっているのがわかる。

そんな状態でも何とか耐えることができたようで、無事に触れることができた。

(柔らかいな……それにいい匂いもするし最高だわ……)

しばらく感触を楽しんでいるうちに段々と慣れてきたため、思い切って舌を入れてみることにした。

「んんっ!? んんーっ!」

(うわっ!? すごっ!?)

驚きのあまり思わず口を離しそうになるが、なんとか堪えることに成功することができた。

(あぶなかったぁ〜)

ほっと一息ついている間にも愛梨の方は息ができないらしく、苦しそうにしていたので一度解放してあげることにした。

「ぷはぁ! もう無理ぃ〜」

と叫びながら息を整えている彼女を見つつ、次はどうやったらいいのか考えることにした。

(うーん……どうしたものかしら……とりあえず、またキスをしてみようかな?)

そう思って再び顔を近づけようとすると、愛梨が口を開いた。

「ちょっと待って」

と言われ、動きを止める私。

(どうしたんだろう?)

「どうかしたの?」

私が尋ねると、愛梨は答えた。

「えっとね、そろそろ休憩したいかなって思っちゃって……」

(なんだそんなことか)

と思いつつ答えることにする。

「別に構わないわよ」

そう言うと嬉しそうに微笑んだ後、ベッドに横になったのだ。

そんな姿を見ているとなんだか微笑ましく思えてくるのよね〜♡

可愛いなぁ〜♡

そう思いながら見ていると急に抱きつかれたかと思うとそのまま押し倒されてしまったわ!

(え!? 何が起きたの!?)

驚いている私に構わず愛梨は、そのまま唇を重ねてきたの。

「ちゅぱぁ……♡はぁむ♡」

愛梨は、舌を入れると私の舌に絡めてきたわ。

(あぁ……だめなのにぃ……♡でもぉ……♡きもちいぃよぉ〜♡)

頭がボーッとしてくる中、彼女は一旦唇を離すと今度は耳に舌を這わせてきたわ。

ピチャッという水音がダイレクトに脳に響くような感覚に襲われて身体がビクッと震えちゃう。

「ひゃうん!?」

という変な声が出ちゃったけど気にしていられないくらい気持ちが良かったのよ。

もうすっかり蕩けきってしまった私はされるがままになっていたんだけど、

不意に耳元で囁かれた言葉に背筋がゾクッとなったのを感じたわ。

「ねえ、好きって言ってほしいな〜」

甘えるような声で言われてしまい、断れるはずもなく素直に答えることにしたの。

「す、好きだよ……」

その言葉を聞くと満足そうな表情を見せる彼女だったが次の瞬間には妖艶な雰囲気を漂わせていたのであった。

その変化を感じ取った途端嫌な予感を覚えた私は、咄嗟に逃げようとしたが時すでに遅しだったみたい……腕を掴まれてしまっていたからね。

「ダメだよ、逃さないからね〜」

そう言って笑う彼女の目は笑っていなかった。

(ああ……もうダメだ……)

そう思った時には既に遅く、再び唇を奪われてしまったのだった。

「んっ♡ちゅっ♡れろっ♡じゅるっ♡ぴちゃっ♡くちゅっ♡ぢゅるるっ♡ぷはぁっ♡えへへ〜美味しかった〜♡ごちそうさまでした〜」

満足げに微笑む愛梨に対して私はと言うと、放心状態になっていたわ。

(凄かった……キスだけでこんなに気持ちいいなんて知らなかったわ……)

余韻に浸っていると、愛梨が話しかけてきた。

「大丈夫? もしかしてやりすぎちゃったかな?」

「ううん、そんなことないよ」

私が答えるとホッとしたような表情を見せた後でこう言ってきた。

「よかったぁ〜嫌われたらどうしようかと思ってたんだ〜」

それを聞いて私はクスリと笑って言った。

「嫌いになるわけないじゃん」

それに対して愛梨は嬉しそうな表情を浮かべると言った。

「ありがと! 大好き!」

その言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じると同時に愛おしさが込み上げてくるのがわかった。

(やっぱりこの子のことが好きなんだな……)

改めて自分の気持ちを確認したところで、私達は見つめ合っていたのだが、

そこでふとあることを思いついたので提案してみることにした。

「愛梨、今日はそろそろお時間だし、帰るんだよね?」

「えっ? ああそうだね、帰らなきゃだね……」

名残惜しそうな表情を浮かべていたが仕方がないことだろう。

私だってできることならずっと一緒にいたいと思っているのだが、そういうわけにもいかないだろうからな。

でも、ここで私の意思を押し通さないと!

「そのね、愛梨、泊まって欲しいの? 愛梨ともっとイチャイチャしたいから!」

「ええっ!?」

驚く彼女を尻目に話を続ける。

「だから、帰らないで! お願い!」

必死になって懇願すると、彼女は困ったような表情をしながらも了承してくれた。

「わかった、じゃあ泊まるよ〜」

「本当!?」

喜びを隠しきれないまま聞き返すと彼女は苦笑しながら答えた。

「本当だよ、だって私も同じ気持ちだもん♡」

その言葉に嬉しくなった私は思わず抱きついてしまった。

「きゃっ! もう、いきなりなんだから〜びっくりしちゃったじゃないの!」

そう言いながらも優しく受け止めてくれる愛梨。

そんな彼女が愛おしくなり、つい口に出してしまう。

「大好きだよ、愛梨」

「ふふっ、知ってるよーだ」

悪戯っぽく笑いながら言う彼女にドキドキしていると、突然唇が重ねられた。

「んむっ!?」

驚いて離れようとするが、しっかりと抱きしめられていて身動きが取れなくなってしまった。

(やばい……このままじゃ堕ちる……!)

そう直感した私は必死に抵抗を試みるが、無駄に終わった。

それどころか逆に激しく攻め立てられてしまい、為す術もなく蹂躙されてしまう。

(ああっ……やばい……これやばいやつだ……)

そう感じた直後、頭の中で何かが弾けたような感じがしたと思ったら意識が遠のいていった。

気がつくとベッドの上だった。

(あれ……? なんでこんなところにいるんだろ……?)

不思議に思っていると、

「おはよう、目が覚めたみたいだね」

隣から声が聞こえてきたので見てみるとそこには愛梨の姿があった。

(そうだ、思い出した……)

どうやら気絶してしまった私を介抱してくれていたらしい。

申し訳ない気持ちになりながら謝罪の言葉を口にする。

「ごめんなさい、迷惑かけちゃって……」

そうすると、彼女は笑顔で答えてくれた。

「気にしないでいいよ、それより体調はどう?

まだ辛いようならもう少し休んでいても大丈夫だよ?」

そう言われて少し考えた後、首を横に振った。

「ううん、平気だよ、心配してくれてありがとうね」

お礼を言うと、彼女は照れ臭そうにしていた。

(可愛いなぁ……)

そんなことを思いながら見つめていると、その視線に気づいたのかこちらを見てきた。

「どうしたの?」

首を傾げながら聞いてくる彼女に、何でもないと返すとそれ以上追及されることはなかった。

それからしばらくの間沈黙が続いたが、気まずい雰囲気ではなかったためむしろ心地良さを感じていたくらいだ。

(幸せだなぁ……)

そんなことを考えながら愛梨を見つめていると、視線に気付いたらしくこちらを向いて微笑んでくれた。

それだけで幸せな気分になれるのだから我ながら単純だと思う。

だが、それでいいじゃないかとも思うのだ。

好きな人と一緒にいられることがどれだけ素晴らしいことかを理解しているからこそ、

今こうして一緒に居られる時間が何よりも大切なのだと感じているのである。

だからこそ、この時間を大切にしていきたいと思うし、そのためにも精一杯努力しようと心に誓ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る